第3章 シャンゼリゼの出会い(二日目)
4.ノートルダム寺院〜チーズ事件〜
魔法博物館が存在しなかった。これは、一大事である。
だが、そんなるしふぇるの悲壮なオーラを全く感じる様子はなく、むしろ幸せに満ちた笑顔で次の目的地に向かう2人。なんて酷い友人だろう。
さきほどのセーヌ川まで戻り、ほとりを歩く。セーヌ川は思ったよりちゃちかった。ヨーロッパの川は穏やかだ。このまま川沿いに歩いていくと、駅につくはずである。
しかし、せっかくのパリの象徴セーヌ川。フィルムに収めておいて損はない。
俺はジャケットのポケットに手を突っ込み、カメラを取ろうとした。その時。
「ぬちゃ」
??
冷たい感触。なに?これは。
手を見る。何か白い物体。(暫く考える)
チーズ……そう。朝、ポケットの中に入れたあの小憎らしい牛の顔のチーズ。
それが、ポケットの中で包みを突き破って散乱。
やっべーーーーーーーーーー
財布にもチーズ。カメラにもチーズ。爪の間にチーズ。
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい
いかん。こういうときにこそ平静を装わなければ。幸い、前を歩いている二人は気づいてない。
珍しく持っていたポケットティッシュで応急処置。しかし、手が半ばチーズ化している。このままでは、全身がチーズに変わるのも時間の問題である。しかし、後でまた話すが、フランスにはトイレがない。手を洗う場所がない。しかたなく、エビアンで手を洗う。まさかミネラルウォーターで手を洗うことになるとは……お茶でうがいみたいな心境。
そして、後ろで大惨事になっていることにも気づかず、のんびり歩く二人。ああ、幸せな方々だ。
と、大変なことになってしまいつつも、ようやく到着。シャトレ駅。そして、次の目的地は「シテ」駅。なんと、次の目的地「ノートルダム寺院」は、セーヌ川に浮かぶ島「シテ島」にあるのだ。川に浮かぶ島っていうのがあんまり日本じゃ見かけない(あるの?)が、ここがパリの名所になっている。
シテ駅はシャトレ駅の隣なのだが、パリの地下鉄というのは、駅に隣の駅の名前が書いてない。また、乗っても次の駅の名前を言わない。車内は静かなもんだが、降りる時はめちゃめちゃ困る。電車の最終目的地を知らないと、この電車がどっちに走っているのか分からないのだ。
という街で、ホームに着いたとたんに電車が。
これか?それとも、向こう側か? 時間がないっ! のっちまえ!
これで外せば良いネタになるんだけどねぇ。ええ。いい感じに正解。到着、シテ駅。で、駅からちょっと離れたところに、ノートルダム寺院発見。
パリの名所その2 ノートル・ダム寺院 フランス・カトリックの総本山。ゴシック建築の技術の粋を集めて作られた、パリで最も壮麗な建築物。ジャンヌ・ダルクの名誉回復審判や、皇帝ナポレオン1世の戴冠式などが挙行された。中央の尖塔が特徴で、左右対称を取る美しい寺院。 |
入り口付近に、馬に乗る男の像がある。
るしふぇる「なんだろ。あれ。あ、ナポレオンか?
かなめ「あーー、そうか。ナポレオンだね。
いながき「……
しかし、さっきも像を間違えた前例があり、確信が持てない。そして近寄ると、どうもナポレオンよりも古臭い格好をしている。文字が書いてある。
るしふぇる「シャルルマーニュ……カール大帝?
かなめ「ああ、そうか。そうだよな。800年って書いてあるから……
いながき「……
さすがのいながきの予習も、そんなに古い時代までは網羅し切れなかったようだ。しかし、意外なところで歴史上の有名人に出会い、パリに来たことを実感。
それにしても、馬に乗ってるフランス人は誰も彼もナポレオンだと思ってしまうのは悪い習慣である。
とっとと中に入ろう。まぁ、魔法博物館に入れなかったので時間には余裕がある。ちなみにノートル・ダム寺院の入場料は無料である。タダはタダだろう。
だが、中に入って驚いた。広い聖堂、そして天に届くほどに高い天蓋。その下で、荘厳な雰囲気のもとミサが行われている。美しいステンドグラスに彩られた壁面は、まさに美麗の一言。圧巻である。これが……、世界だ。
伝統あるフランス・カトリックの中心に位置する、聖なる大寺院。さすがのいながきも声を失った。
奥に行くと、キリスト生誕2000周年の展示をやっていた。そうだ。ミレニアムミレニアムって、よく考えたらキリスト生誕2000年なのだ。初めて気づいた(ちなみに旅行は1999年12月)。展示コーナーは寄付金(金額自由)だった。200円くらい入れる。
展示は、主に聖書の記述をなぞったものだったが、フランス語、英語、とあとラテン系の言語数種の対訳になっていた。さすがに日本語はなかったのだが、意外なところで日本語に出会った。
「寄付金をお入れください。」
!!!!!!!!!!!!
やはり日本人のイメージは金を置いていくことだったのか……
展示品は、最初のほうの聖書の対訳だけならまだよかったのだが、徐々に人形のようなものが増えてくる。なにやらどんどん子供だまし(というか、小学校の文化祭の出し物レベル)になってきて、最初の感動も台無しになった。アジア風に言うと蛇足である。中国人の知恵も捨てたものではない。
さて、いよいよ舞台は後半戦へ。腹も減ってきた3人は、シャンゼリゼ通りへと向かう。
5.シャンゼリゼ通り前編 へ続く