第4章 寒空のヴェルサイユ(三日目)

1.出発
2.ヴェルサイユ
3.宮殿にて
4.フランスのマック
5.フランス料理

5.フランス料理

どういう理由だか覚えてないが、アウステルリッツから帰る事になった3人。別に最寄駅でもなんでもない。「帰れなくも無いかな」という距離である。だが、これが後々の伏線になるとは誰も想像しなかった。

ノンビリ歩いて帰ると、そろそろ腹も減る。と、先ほどの「晩飯は豪勢に」計画始動。そう。フランスに来たからには、フランス料理だろう。昨日は晩飯も食わずに寝てしまっただけに、今回はちょっと気合いを入れて食わねばならん。

そんなわけで、アウステルリッツとイタリア広場の間くらいにある、ちょっと高級そうなレストランに入る。ノーネクタイはやばいかと思ったが、まぁ大丈夫らしい。入ると、まさにパリジェンヌって感じのお姉さんが「メルシー」と出迎えてくれた。我々は彼女を密かに「メルシーのお姉さん」と名づけた。

席につく。旅も始まったばかりなので日本円の現金はまぁあるのだが、フラン自体がそんなに大して無いので、あまり高すぎるものは食えない。不安な我々の前に現れたメニューは、予定通りオールフランス語だった。

るしふぇる「あ……ついに来たよ。
かなめ「やっぱり、入る店まちがったんじゃ……
いながき「………

店員、注文を聞きに来る。だが、何一つ決まってない。

るしふぇる「もう少し待ってください

店員、戻る。3人、とりあえずガイドブックを出す。

ガイドブックには、英語とフランス語と日本語の対訳が書いてあった。だが、細かい料理についての訳はない。基本的に、材料中心である。

ふと、隣の席のフランス人が生カキを食っているのを見る。

るしふぇる「俺はあれが食いたい

メニューにて、カキを探す。カキがオイスターなのはわかる。だが、オイスターはもちろん英語だ。しかもつづりが分からない。今度はそれをフランス語に直す。えらく時間がかかる。実はエスカルゴが食いたかったのだが、そんなことは言ってられないくらいメニューが読めない。

再び店員登場。今度は、メニューを英語で説明しだす。半分くらい分かったが、残り半分はさっぱり分からず、再び追い返す。

だが、どうやらメニューのどの辺にどんなものが書いてあるのか程度には分かったので、ガイドブックを駆使してなんとか注文できそうなものにこぎつける。

入店30分後、結局3人が頼んだのは、

シャトーブリアン(3人とも)
生ガキ
(るしふぇる)
カルパッチョ
(いながき)
ポテトサラダ
(かなめ)

であった。

まず、前菜が出てくる。

生ガキは、6個。殻付きで、酸っぱいタレみたいのにつけて食べる。美味しい。が、よく考えると生カキなど日本でも食えるのだ。

カルパッチョは、70Fと、前菜の分際でなかなかの値段。味付けが薄めで、まぁ「生」って感じだった。美味しいのかどうかはいまいち謎だが、フランスっぽくてよかった。

そして、ポテトサラダ。だが、これ、どうもポテトサラダではない。シーフードが沢山入った、サラダっぽい食べ物だった。これはかなり美味しかった。

続いて、メインのステーキ。シャトーブリアンというのは人の名前らしい。せっかくだから、この店で一番高いステーキを注文した。はっきり覚えてないが、日本円で4000円くらいだった気がする。タルタルソースっぽいソースにつけて食べる。まぁそれなりに美味しかったが、俺は日本のステーキのほうが好きである。

最後に、デザートを注文する。さんざん迷い、半分しか分からない店員の説明を聞いた挙句、3人が選んだのは

シャーベット(いながき)
チョコレートケーキ(るしふぇる)
パイ(かなめ)


であった。シャーベットは3色。何のシャーベットかは覚えてないが、美味しかった。

しかし、出色はチョコレートケーキだ。まさに「デザートはフランス」といった、エレガントな装飾の入ったケーキで、アイスなんかがいい感じで溶けててかなりの美味。でも、1000円くらいした。
パイは、何にもまして「巨大」だった。最初、店員が「こんなのです」と言って持ってきた奴を切り分けるのかと思ったら、そのままテーブルに置いたというくらいでかい。

ところで、左右隣の席には、クッキーが載っていた。だが、うちのテーブルには無い。

かなめ「あれが食いたい

サービスだとは思うのだが、確証が持てない。しばらくすると、隣の席の客が帰った。クッキーは残っている。チャンスである。

クッキー盗み作戦開始!!

かなめ、のびをする姿勢で手を上に振りかざし、そのまま手を隣の席へたらす。だが、とどかない。失敗。

つづいて、いながきが逆隣の席に手を伸ばし、すばやくクッキーをゲット。大成功である。

ていうか、俺ら、アホか?

最後にコーヒーを飲んで、帰る。実に迷惑な客だったが、店を出るときに傘を忘れて取りに戻ると、メルシーのお姉さんが微笑んでくれたので、オールヴォワールと言って帰ってきたので良しとしよう。

それにしても、フランス人は飯を食うのに時間がかかる。我々が店に入ってから出るまでの間、迷っていた時間を別にしても3時間はかかっている。別に、ココスじゃないんだから店でだべっていたわけでもない。普通に(?)注文して、料理を待って、飯を食って……で、それだけ時間がかかるのだ。カルチャーショックだ。まぁ、今日は別に他に用事が無いので全然問題ないのだが。


で、ホテルにつく。部屋での会話。

るしふぇる「じゃあかなめ、マスタードカスタードの区別はつくのか?
かなめ「つくに決まってるじゃないか。そこまで馬鹿にするなよ。
るしふぇる「じゃあ、ホットドックにつけるのはどっちだ。
かなめ「マスタードは甘いやつだあら、ホットドックにはカスタード

それはやめてくれ。


そして夜が更けた。