第一章 免許証再公布

1.流山免許センター
2.すいかパン
3.フェリー

3.フェリー「ばるな」

21:30 大洗には、なんとか定刻どおりに着いた。
既に船は碇泊している。想像していたものよりも、はるかに巨大なフェリー。さながら、海に浮かぶ巨大建造物である。フェリーの名は「ばるな」。インドにおける、バラモン教以来の古い水神「ヴァルナ」に由来する。

さて、乗船手続きはしてみたものの、晩飯が無い。よく考えると、俺昼飯も食ってない。だが、車は一度停車すると、戻れないのである。
仕方なく、急遽コンビニ買出し部隊が編成される。タイムリミットがかなり厳しいので、当然ダッシュ。結構長い距離。こんだけ走ったのは就活以来である。

なんとか弁当を5人分買って来て、ばるなに乗船。しかし、後から後からどんどん人が乗ってくる。ギリギリのはずの我々は、実はかなり早く乗船した方らしい。急いだだけでこれだけ損した気分になったのも久し振りである

部屋は一応指定である。が、あくまで「一応」であり、実質的には完全に「雑魚寝」状態。

ここで、巨大戦艦「ばるな」の中身をちょっと紹介しておく。

客室…泊まる部屋。1等〜2等が、さらに細かく区分割けされている。当然我々は一番安い奴。
レストラン…大抵開いてない。飯時だけ、瞬間的に開く。値段はそれほど高くはない。
ラウンジ…テーブルがついているソファーなどが並んでいる。テレビも付いている。
カードルーム…麻雀卓が三台。
ゲームルーム…ビデオゲームが11台。そのうち半分は脱衣麻雀…
ベビールーム…給湯設備と、ベビーベッド
浴場…外が見える風呂

などなど、船内には色々あって結構飽きない。我々はラウンジに移動し、コンビに弁当争奪戦を行うことにした。わざわざ異なる5種類の弁当を買い、未だに名前がわからない、「いっせーの」で指を立てるゲーム大会。

第一回争奪戦 結果

順位 名前 pts 戦利品
1位 いがた タツタがうまい
2位 るし ナシゴレン
3位 はるか とびっきりご飯(カルビ)
4位 たけし エビピラフ(大盛)←こだわり
5位 まこり 四川風チンジャオロース


飯を食うと、いよいよ出航である。やはりこれは外に出ておくべきだろう。甲板に出ると、港がよく見渡せる。中々いい景色である。

船のモーターの影響か、空気が振るえている。音も震えている。丁度、扇風機の前で喋っているような震えた声が出る。
とりあえず、全員「ワタシハ宇宙人ダ」と唱えておく。

甲板で待っていると、船内放送で「15分出航が遅れる」などと言いだした。さっきの我々の苦労はなんだったんだろう? 仕方なく、人名しりとりなぞして暇を紛らわせる。

23:45、いよいよ出航である。ちなみに、室蘭到着は明日18:30予定。船の中に20時間である。

港でなぜか墜落死したかもめの処理に困る海の男達を微笑ましく眺めながら、船は暗闇へと向かっていった。あまりに濃い霧のせいで、陸を離れると何も見えないのである。

「なるほど。これなら、船の上で殺人事件もおきよう」などと、妙に納得しながら、ラウンジへ移動。

それにしても、船が出港した瞬間、既にレストランは閉店。売店も閉店。風呂にも入れない。いきなり、出航の段階から何もできないのである。これはちょっと寂しい。まぁ、20時間近く海の上なのだから、明日いくらでもチャンスはあろう。

落ち着いた我々は、ラウンジで、はるかのチーズケーキを食べることにした。

「昨日はこの2倍あった」という、製作者の不可解な供述に不安を感じながらも、チーズが濃くて中々美味しかった。

ケーキを食うと、皆寝るモードに入ってしまう。特に、「のびたけし」の異名を持つたけしは、布団に入ってわずか3秒で夢の世界へ飛び立ってしまう。まさに国内では敵なし、世界でも上位ランカーといい勝負ができそうなくらい、寝付きのよさには定評がある。

どうせ俺は夜型だし、寝ても寝付けなそうなので、船の中を探索することにした。散策した後、行き着いたのはゲームコーナー。中にはストIIみたいなの(EXIIplus)があり、まだ俺のコントローラーさばきでも充分に対応できそうだったので、2ゲームほどこなした。

そんなこんなで、女性陣も寝付いた頃。恐らく、夜中の1時か2時頃だったのだと思う。ふと、

「霧につつまれた完全な闇」

というものを見てみようと思った。
陸から隔絶された、闇の闇。黒の黒。それはつまり「何も見えない」ということだが、「見えないもの」を見る機会もそうそうないだろうと思い、外に出てみたのだ。

確かに、外は暗かった。だが、それだけではなかった。
水面に何かが映った。

見上げれば、空を覆わんばかりの美しい星空。
人工的な光から完全に遮断された、純粋な天球は、今まで見たどの星空よりも綺麗だった。宇宙にこれだけの星があるというのは、実際に見ないと実感できないものだと痛感した。

そして、流星が落ちる。


早起きは三文の得かもしれないが、夜更かしも決して悪いことばかりではないな。

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