第6章 移動日の悪戯(五日目)
1.大天使再び
2.霧のロンドンエアポート
3.中華料理店
4.トラファルガーの戦い
3.中華料理店
ロンドンはアールズコートのホテルから再び観光に出発する3人。
目的地はピカデリーサーカス。円形広場という名を持つここの広場はロンドン観光の中心地と呼ばれている。
目的はガイドブックに載っていたエロス像だったりもするのだが、実はまぁどちらかというと晩飯。飯がまずいと不評のイギリスだが、この辺の中華料理はうまいらしいのだ。
と、いきなりエロス像発見。
ロンドンの名所その1 エロス像 エロスというのは古代ギリシアにおける「愛の神」のことで、英語で言うとキューピッドにあたる。 あの、弓矢でもってしてハートを射抜く天使姿の、ヨーロッパ版縁結びの神だ。 博愛主義者のシャフツベリー伯爵を讃えて1892年に建てられたという。 |
まぁ、見てしまえば別にどうということは無い。
大して大きいわけでもなく、知らなければ絶対に気が付かないし、日本に同じものがあっても特に気にならないだろう。
というわけで、我々は腹ごしらえのために、ピカデリーサーカスの近くにある中華街の店に向かった。
飯がまずいというイギリスにおいて、中華料理というのはもっとも無難な料理なのだという。
ガイドブックにも載っていたその店は、結論から言うと「安い、量が多い、店員の態度悪い」という三拍子そろった(?)店だ。
店員同士が、客の注文も聞かずにタバコを吸いながら雑談している。
まぁしかし、料理店の本分は料理の内容なのかな、とも思いつつ料理を注文。
丸テーブルの席につくと、突然隣の客が目に付く。
………………
また日本人か…
日本人客は、親父が一人と娘が二人、といったような構成だ。
娘は高校生ぐらい。
どうも、海外で日本人客と一緒になると気まずい。
何故なのだろう?
取りあえず、我々は料理を注文した。
るしふぇる:牛肉ラーメン+鳥丼
いながき:ワンタンメン+鳥丼
かなめ:チャーハン+ワンタン
料理が来るまでの間、テーブルの上で意外なものを発見した。
醤油だ。
日本人の心、醤油である。
我々日本人が「インド料理はすべてカレー味」というのと同様に、外人がすべからく「日本料理はすべて醤油味」と言うほどのまさにザ・和の食材。
まさか、ロンドンの中華料理店のテーブルの上にソイソースが乗っているとは・・・
って、良く見るとこの醤油、キッコーマンと書いてあるじゃないか!!
千葉県野田市の誇る、醤油会社キッコーマン。
曰く、
野田市駅は醤油の香りが漂い、
野田のジュースの自販機には醤油が並び、
野田の蛇口をひねると醤油が出てくる。
そんな真偽の知れない情報とともに育った我々。
だが、まさに彼らは世界進出を果たしている。
すごいじゃないか、キッコーマン!
と、そこで料理が来る。
料理はまぁ、先ほども述べたように量が多く、鳥丼などは甘辛いソースで、骨が邪魔だったが、全般に日本で食うような中華料理に雰囲気が似ており、なかなかのものだったと思う。とりあえず、落ち着ける味だ。
飯を食っている間、となりの3人連れの親子の会話が聞こえる。
おっさん、まるで自分の街のように得意満面でロンドンについて語っている。
得意満面というか、満面の笑みで語っている。
俺がザ・ロンドンだ!とでも言わんばかりの勢いだ。
それにしてもやけに詳しいぞ、このおっさん。
とりあえず、この席にいるだけでロンドンの観光地について多少詳しくなれそうだが…
と、目の前にイギリス人カップルが座る。
イギリス人はフランス人ほど豪快に飯を食わない……のだが、彼らは料理が来るとおもむろに例のキッコーマン醤油を手にとった。
おお! 日本の心、醤油を……え?
イギリス人、ラーメンに醤油をドバドバかける。
それはもう、本当にドバドバと。
塩分過多・高血圧などという言葉は英語の辞書には無いんだろうか?
意外なところで意外なほどに日本の心が愛されていることを感じた晩飯であった。
次回、4.トラファルガーの戦いへ続く