第6章 移動日の悪戯(五日目)

1.大天使再び
2.霧のロンドンエアポート
3.中華料理店
4.トラファルガーの戦い

1.大天使再び

いよいよ、フランスとも別れを告げるときが来た。相変わらず劇的に旨いフランスの朝食を平らげ、例によって朝風呂に入り、ホテルを後にする。

空港に向かうのだが、多少時間に余裕があったので、地下鉄の経路を微妙にずらして、昨日のサン・ミッシェルを通ってもらうことにした。せっかくなので、昨日のミカエル像を写真に収めておこうと思ったのだ。

だが、昨日の出口とは違って訳の分からないところに出る。さすがに時間がたくさんあるわけでもないので、路上の帽子屋さんに道を聞く。

「サン・ミッシェル広場ハドコデスカ?」

で、場所が分かって一人で写真を撮りに行った。
駅からはなんかえらい距離があって、昨日の出口とは大違いである。
行って帰ってくるのに結構時間がかかった。駅自体が大きいから仕方が無いのだが。

さて、ここまでは平穏無事に過ぎていったのである。
だが、このままでは済まされない。

「人はどこまでいい加減な旅ができるのか」の副題は、
伊達じゃないのである。

サン・ミッシェルから、空港の駅に向かう地下鉄で、大変な事に気付いた
現金の入った白いチョッキを、ホテルに置いてきてしまったのである。
ベッドのシーツに紛れて、見落としてしまったのだ。

中には、現金が約7万円ほど入っている(ほぼ全財産)。
他にも、保険などどうでもいいものは何一つ入っておらず、
まさに命綱なのである。

2日も続けて絶体絶命。これはあばい。

とりあえず、先に空港に向かっていってもらおうとするが、
待っててくれるというので(先に行っても仕方がないというのもあるのだが)、
タクシーを捕まえてホテルへ。

だが、このホテル、最初に来た時もタクシーの運ちゃんがわからなかったという曰く付きのマイナーホテル。今回もやはり分からない可能性が高い。ていうか、前ぐらいの時間がかかってしまうと絶対に間に合わない。

でも、今回は地名がわかっていた
さっきのが「サン・ミッシェル広場」なんだから、当然「イタリア広場」も言えるはずである。というわけで、何とかホテルのある場所を伝えて、ホテル到着。

急いで部屋に戻ると、なんと既に部屋は掃除されていた
ベッドの上にあるはずの白いチョッキは、シーツと共に消え去っている。

フロントに聞く。焦っているので自分でも何を言ったらいいのか分からないのだが、とにかく無我夢中の英語。すると、何とか通じたらしい。

「彼女についていってみなさい」

言われて掃除のお姉さんについていくが、忘れ物は見当たらなかったという。

タイムリミットは迫る。

多分シーツに似てるから、見落としたんだろう。その辺りを気合いで説明すると、もう一度探してくれた。そして……見つかった!!!

お姉さんにフランス語で感謝し、急いでホテルを出る。

だが、タクシーを待たせていたわけでもなく、サン・ミッシェルにどうやって戻ったらよいのかわからない。
電車を使っては多分間に合わない。

………そうだ!!

そう言うと、昨日一人で深夜に帰ってきたとき、駅前からタクシーが出ていることに気付いた。普段地下鉄に乗る場所より、もう少し奥に行ったところだ。そこに行けば、車が出ているだろう………

予想的中。タクシーに乗る。サン・ミッシェル広場へ。だが……

ついたところは、もちろんミカエル像の前。他の二人が待っているであろう場所は、ここから結構離れている。

だが、さっき写真を撮ったお陰で、その場所から駅までの道はバッチリわかっているのだ。まさに不幸中の幸いである。

イタリア広場の発音。
ホテルからのタクシーの場所。
サン・ミッシェル広場から、駅までの道。

昨日サン・ミッシェルで降りなければ絶対に気付けなかったいくつかの要素が重なり、なんとか無事に空港にたどり着くことができた。もちろん、今日サン・ミッシェルで降りていなかったら、空港まで現金紛失に気がつかなかったかもしれない。まぁ、こういうのも加護なのかなぁとちょっと不思議な気分になってみたりした。

次回、2.霧のロンドンエアポートへ続く