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第5章 アルハンブラ宮殿(4日目)


(1)アルハンブラ宮殿

ホテルのバイキングで朝食を取り、朝8時前にチェックアウトして荷物を預け、街へ繰り出す。
ガイドブックにはこのホテル「バイキングが人気」と紹介されていたのだが、味は言うほどでもなかった。

さて、今日の目的地はグラナダのハイライト、アルハンブラ宮殿である。

意味はアラビア語で「赤い城」に由来するが、行ってみるとちっとも赤くはない。何故赤くないのかは諸説あるそうだ。

同じく赤くないモスクワの「赤の広場」と同様、単に「美しい」というニュアンスなのかも知れない。

<コラム>アルハンブラ宮殿について

スペインが誇る「世界一美しい建物」アルハンブラ宮殿についてちょっと説明を。

13世紀頃から、ここにはナスル朝グラナダ王国と呼ばれるイスラムの王国があった。

スペインの歴史はイスラムとカトリックの長い領土争いに彩られていたわけだが、最終的にカトリックがスペインを完全支配に至る過程はレコンキスタと呼ばれる。

(ちなみにレコンキスタは俺が高校の頃は「国土回復運動」と訳されていたが、今はイスラムの視点を考慮して「再征服運動」と訳すらしい)

レコンキスタは15世紀、フェルディナンド2世・イサベルのカトリック両王(昨日の日記参照)が、アルハンブラ宮殿を無血開城させたことで終了する。これに よってカトリック対イスラムの長い戦い、レコンキスタは総仕上げを迎えた。つまり、グラナダの街はカトリックによるスペイン支配の象徴なのである。

そしてアルハンブラが無血開城だったことから、今日に至るまでグラナダにはイスラム文化が滅びずに根付くことになった。昨日のアラブ人街・アルバイシン地区を始め、このあたりにはトルコ料理屋も多いのである。




早速アルハンブラ宮殿へ向かうことにしよう。

ガイドブックにはヌエバ広場のバスに乗れば行けるようなことが書いてあったのだが、止まっているのは昨日アルバイシン地区に行ったのと同じ32番バス。
ガイドブックにはこれでアルハンブラに行けるとあるのだが…


運転手(女性だった)に「アルハンブラ?」と宮殿の方を指さして聞いてみたら、「NO」とのこと。

えーと…行かないのかよ。。



こうなると、宮殿まで何に乗ればたどり着けるのか分からない。


方向は分かってるんだが、アルハンブラ宮殿って丘の上なんだよなぁ。。
まだ朝早いのでそんなに暑くはないんだが…





仕方ない、歩いて登るか。


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かくしてヌエバ広場の向かいからアルハンブラに続く坂道を延々と登り始めた。
坂道は緑は多いが、道はきちんと舗装されている。



まだ朝なので人気も少なく、日陰が心地よい。


が…


ものすごく急だ。




最近山なんか登ってなかったからなぁ。。



この坂は4年ぐらい前に行った万里の長城以来だ。
アレはきつかった。。





ヘロヘロになりながらしばらく登っていると道が分かれたので、城壁らしきものがある方に進む。すると、開放された入り口があった。


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「ALHAMBRA」




これだ!


何故か受付係一人おらず、必要なはずの入場料も取られない。
合ってるのかな。。

ただ城壁の中の建物を見ると、確かにアルハンブラ宮殿のようだ。


廃墟みたいなのも混じってるようだけど。。

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しかし何故か入れそうな建物が少ない。とりあえず一つ立派な建物があったので中へ。

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外側は四角いのだが、中は円形になっていた。ステージ…なのか?

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ガイドブックを見ると、こんなカタチをしているのに、宮殿らしい。
といってもこれはカルロス五世宮殿。カトリック支配の後にできた比較的新しい建物だ。

ちなみに丁度「新世界七不思議」の投票をやっている時期で、こんな看板も立っていた。スペイン代表はアルハンブラ宮殿のようだ。結局落とされたようだが。。

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さて、アルハンブラ宮殿というぐらいなのでもちろん王宮がある。
中に入るのには時間限定のチケットがあると聞いたのだが、はて…チケットなんて売ってなかったと思うが。


近づいてみたが、当然のように入り口は閉ざされていた。
朝早いので人影はまばらだが、確かにチケットらしきモノを持った人はる。


チケットを求めて宮殿と逆側に歩いていくと、ヘネラリフェ(庭園)への通用口があり、警備員が立っていた。

チケット売り場の場所を聞いてみる。


すると…「さっきの入り口を出てぐるっと回れ」と言われた。


そういうことか。。



結局俺は坂道の途中で門をくぐったが、正規の入り口はさらに坂を登る必要があったようだ。


というわけで、一度アルハンブラを出た俺は再度山登りに興じるのだった。。



(2)アルハンブラの王宮

正規の入り口を目指して、ひーこら坂を登る。

途中、城壁の方から落石がっ!
こんな所で怪我をして海外旅行保険の世話になるわけにはいかない。


坂を登るに連れてようやく人が増え始め、アルハンブラの正門に到着。バスもここに止まるらしく、観光客が沢山降りてきた。どのバスが止まるかは相変わらずナゾだが。。


ガイドブックの地図を見ると、どうやらさっき俺が入ったのは通用門みたいなモノだったらしい。その名も「裁きの門」。確かに何者かに裁かれた感が。。


さて、ようやく辿り着いた正規の入り口から入った俺が見たもの。
それは…



…尻尾の見えない長蛇の列。



実は王宮は30分ごとの入場制限があり、そのチケットを手に入れるには朝から並ばなければならないのだ。

ちょっと躊躇する長さの行列だったが、ここで諦めるとなんのためにクソ暑いグラナダくんだりまで来たか分からないので、諦めて並ぶことにした。


約40分……

ニンテンドーDSなぞをやりながら待ちましたよ。



ようやくチケットカウンターに辿り着いたのは10時頃だが、チケットに印刷された指定時間は11:30〜12:00。この間に宮殿に来いと言うことらしい。

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話によると、実際並んでみないと何時のチケットが手に入るか分からない上に、昼頃には売り切れてしまうこともあるそうだ。

そのため、宮殿への入場は8:30からなのだがチケットの販売は8:00から始まる。実際はそれより早く並び始めるのがセオリーで、シーズン中だとグラナダ には来たものの王宮を観られずに帰る人も結構多いんだそうだ。今回みたいにスキマを縫ったようなオフシーズンでもこんだけ並ばされるんだからさもありなん。


さて、やって入手したチケットは三つの半券がついていて、それぞれヘネラリフェ(庭園)、王宮、アルカサバの3カ所。

王宮はさっき入れなかったところだが、はてアルカサバはどこにあるのだろう。

とりあえず、入り口から道の繋がっている庭園へ向かうことにした。


ヘネラリフェは天の楽園を意味する庭園。水路や噴水を擁することから、水の宮殿と呼ばれる夏の離宮だ。

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花や緑に彩られた丘の上のヘネラリフェは、天気の良さも手伝って目を疑うほど美しい場所だった。立地上、敷地自体は広くないが、イメージとしては密度の濃いヴェルサイユ宮殿のような感じだ。

こういった庭園はアルハンブラに複数作られたが、現存するのはヘネラリフェだけらしい。

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ヘネラリフェを散策していると11時を回っていたので、先ほどの宮殿へ向かう。

ここで時間を逃したら何が何やら分からない。


ちょっと早いかな、と宮殿の近くのベンチに腰を下ろした瞬間…突然行列ができはじめた。俺と同じ11:30組が集結したようだ。

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宮殿にはチケットを持った観光客が、時間差で数人ずつ入っていくことになる。ちなみに一日の入場者制限は7700人、だそうだ。多いのか少ないのかよく分からないが、遺跡保護のためらしい。

というわけで、いよいよアルハンブラ宮殿の中心、ナスル朝宮殿へ入る。


アルハンブラ宮殿は、世界一美しい建物とされ呼ばれる、スペインを代表する建築物だ。
他に同様の名声を得ている物にはインドのタージ・マハルがある。

共通点は、在りし日のイスラムの栄華を伝える建造物という点だろう。

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イスラム教は偶像崇拝を厳しく禁じるため、アラベスクなど独特の幾何学模様を美術品に用いることになった。これがキリスト教であればキリストやマリア、天使や聖人の像を彫刻や絵画にして飾る。仏教であれば、これが仏像や仏画になるだけだ。

中国にはあちこちに龍や鳳凰がいるし、ギリシャ・イタリアでは神々や英雄、エジプトでは王族や動物と人間が一緒になったような神様があちこちに見られる。

人間やら動物やら、実在するモチーフは分かりやすいのだが、どうしてもデザイン的に風化したり、好き嫌いが分かれることが多い。作った側の特別な思いが込められるため、必ずしも見る側から「いい物」と取られるかどうかは分からない。

と ころがイスラム建築に見られる美術は、絵画、彫刻というよりは緻密な模様だ。一見したインパクトという点では絵画や彫刻ほどではないのだが、こういった美 術には普遍性がある。いつまでも古ぼけない、誰が見ても美しい模様。作られて数百年たった今でも、当時の技術の素晴らしさに感動できる。

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アルハンブラのアラベスク模様はイスラム芸術の最高傑作と呼ばれている。とにかく細かい。そしてその細かい細工が、広い宮殿内を埋め尽くしている。どれだけの労力と信念があればこの仕事ができるのか。。

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純粋な幾何学模様で構成された宮殿は、モチーフに捕らわれない純粋なバランスで、歴史を越えてただそこに美しく「ある」。とにかく圧倒されるのだ。

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さて、3つめのチケットはアルカサバ。これはローマ時代の建物を整備して造った要塞で、アルハンブラ宮殿最古の建築物らしい。ほとんど廃墟だが、旗の立ったベラの塔に登ると360度のパノラマ。長めが壮観で素晴らしい。

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というわけで、一通りアルハンブラ宮殿を満喫すると既に14時。腹も減ってきたのでバスに乗ってヌエバ広場に降りることにした。


後で分かったのだが、例の32番バスはヌエバ広場→アルバイシン地区→アルハンブラというコースを通るらしい。ナルホド…




(3)インド料理とグラナダのデパート

基本的に、日本ではカレーばかり食べている。

食生活的にはカレー5割、寿司1割、その他4割といった感じだろうか。

そういった生活を送っているので、海外に行くと和食が恋しくなる前にカレーが恋しくなる。禁断症状だ。

そろそろスペインの料理もくどくなってきたので、サクッとヘルシーにインド料理など食べておきたい。香辛料は漢方薬みたいなものなので、いい感じに効いて体調も良くなるはずだ。

というわけで、グラナダにあるインド料理屋に入ってみた。

入店は13時過ぎだが、スペイン的には日本の11時ぐらいのイメージだ。
というわけで、客がかなりまばらである。



ここは無難に、ガーリックチキンカレー、ナン、タンドリーチキンなどを注文した。


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▲タンドリーチキン。というかチキンティッカ?


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▲ガーリックチキンカレー

味は…普通。

多分タンドゥールの釜がないんだろうなぁ。

オーブンで焼いた味がする。

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↑ちょっと変わったインドビール、コブラ。


さて、腹もふくれたところで…どうしよう。


夜の電車でバルセロナに行く予定ではあるのだが、もうグラナダでやることが無くなってしまった。


グラナダの駅に行く方法が今ひとつ分からないので、バスに乗ってみることにした。
バス乗り場の地図を見る限り、このバスは駅前に行くはずだ。

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▲裏側から見たカテドラル

と思って当たりを付けてバスに乗ってみたのだが、確かに俺がタクシーを拾った道には行ったんだがその後駅を無視して訳の分からない方向に行ってしまった。


えーと。。ここはどこ?



ガイドブックの地図を外れたので、全くもって見当も付かない。



一応、循環線のハズだから放っておいたら元の場所に戻ると思うんだけど…


と思ったら、何故か終点に付いてしまった。
運転手がバスを降りてしまう。


アレ。俺帰れるの??




もう「これは循環線だ」という強い信念を持つしかない。客は全員降りたが、何食わぬ顔をしながらバスに残り続ける。そう。これはスペインとの、実は自分との戦いだ。





しばらく待ち続けると、別の運転手が乗ってきた。
よし。。。勝ちだ!!





バスが出発し、進み始めた。
とは言え、一度地図を外れてしまっているのでもう何が何やらサッパリ分からない。





やがてバスは大通りに出た。見るとデパートがある。



4時間ぐらいヒマだし、ここで降りてみるか…




バスを降り、デパートに入った。




涼しい…




文明と出会った気がした。





1Fには土産物や本、上には衣類や電化製品などが売られている。

土産物売り場にこのようなボードゲームが売られていた。
「大名」と漢字で書かれている。

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日本でも見たことがないが、どういうつもりだろうか。



微妙に着るモノが足りない気がしたので、洋服をGET。
別に安くも何ともないんだけどね。



おもちゃ売り場に行くと、ニンテンドーDSやWiiが売られていた。
日本では品薄だが、スペインでは普通に手にはいるようだ。

面白いのは、PS2のソフト。
Wiiのような体感ゲームが流行っているらしく、エアロビクス?っぽいものや、マイクを使って遊ぶカラオケらしきものも売られていた。なるほど、カラオケは日本でも受けるかもしれない。

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ところで日本には数年前に発売され、ヤクザを主人公にした「龍が如く」というセガのゲームがあるのだが、スペインではこんなタイトルだった。


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「YAKUZA」


そのまんまやがな。


さて、涼みも終わって…いよいよ本格的にすることが無くなってしまった。
お腹も空いてないしなぁ。。

とりあえずデパートから出て適当に歩いてみると、見覚えのある道に出た。


うん。ホテルの近くだ。


循環線だからかなり近くまで戻ってきていたようだ。


といってもホテルはチェックアウト済みなので、ホテル近くのBARに入ってサングリア飲みながら休憩。でも別に腹は減ってないんだよなぁ。。

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▲サングリア

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▲酒をお代わりするとタパスもついてくる。おつまみ要らず。これはスペイン風オムレツ。

店を出るときに、見知らぬスペイン人に「オラ」と言われた。


ケンカを売られてるようだが、実は「オラ(HOLA)」とは「やぁ」とか「ハロー」とか「チャオ」みたいなニュアンスで、簡単な挨拶である。店にはいるとよく聞く言葉だ。間違ってもカカロットが身の上話をしようとしているわけではない。


見知らぬ外人にも気軽に声をかけるラテン人気質もいいなぁと。



ホントにすることが無くなったのでガイドブックを見て「日本語情報センター」というのに行ってみることにした。

http://www.jp-spain.com/

ホテルの近くにあるのだが、入り口が閉ざされていて、入ると怪しげなツアーの広告がずらっと並んでる。「裏技」とか「無料」という文言が多いのがいかにも胡散臭い。


とは言え、サングリアで酔っぱらっている上にあまりにもすることがないので、暇つぶしに入ってみることにした。ここ4日間日本語を話してないし、気分転換にもなるだろう。暇つぶしもどうぞ、的なことも書いてあるし。


階段を上るとマンションの一室のような入り口が。
恐る恐るブザーを鳴らすと、40ぐらいのおっさんが現れて中に案内された。


ご ちゃっとギター類が並べられ、ネコだらけの広々とした部屋の中には家族連れの先約がいて、南の方へ行く旅の手配をしてもらっているようだった。家族連れが 料金を払おうとしたら「いらない」と言っていたので、どうやら情報料は基本無料らしい。情報センターは半分道楽でやってるようだ。

日本からアルハンブラ宮殿の手配などもやってくれるようなので、ツアーを使わない場合はお願いしてもいいかもしれない。「混浴の温泉」なんてのもあるそうだ。

とりあえず周辺のスーパーやら、グラナダの食事どころやらバルセロナの闘牛情報などを聞いてセンターを後にした。スペインにいて日本語で情報が仕入れられるメリットは大きいと思う。

ホテルの近くにあったスーパーに行ったり、再度さっきのデパートに行ったりして時間を潰した後、またもや手持ちぶさたに。レストランの場所は聞いたが、何しろ腹が減らない。

仕方ないので昨日と同じく32番バスに載ってアルバイシン地区へ移動。
高台からイスラム建築の最高傑作、アルハンブラ宮殿に別れを告げた。

夕日に染まるアルハンブラ宮殿。。ならいいのだが、残念ながら日が長すぎて夕日でも何でもない。6時は過ぎてるんだけどね。。

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やがて夜行列車の時刻が近づき、ホテルへ戻って荷物をGET。

情報センターで教わった停留所からバスに乗ってグラナダ駅へ。

さっき一度間違ったからいいものの、そうでなければ危うく列車を乗り逃すところだったワケだ。
というわけで、灼熱のグラナダともお別れ。小さくまとまっていて、いい街だった。

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バルセロナ行きの夜行列車は4人部屋。

残り3人はもちろん外人だったが、あまり会話も通じず、基本的に桃鉄DSをやったりして時間を潰す。30年コースが終わったので眠りにつき、そして…夜が明けた。

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