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第2章 マドリード(2日目)


(1)マドリード

東京ほど地下鉄のややこしい国はないんじゃないかと思っていたのだが、どうもそうでもないようだ。マドリードの地下鉄は12号線まである。

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▲マドリードの路線図

もっとも、地上を走る線路は少ないようだが。

スペインの首都マドリード。西欧で一番治安の悪い街w

マドリッドというのは英語読みで、スペインではマドリーと発音しているようだ。


ホテルはプリンシペ・ピオという大きな地下鉄駅の真向かいにあり、中々便利な立地である。
朝食はバイキング形式で、クロワッサンが美味しかった。

実は今日、まさに泊まっていたホテルで受付をやっていたトレド行きの現地ツアーに参加しようと思っていたのだが、最少催行人数一名のくせに断られた。


「いやー、昨日はやったんですけどねぇ。今日は参加者が少なくて」


だったら最少催行人数一名とか書くな!!

仕方がないので、トレドに行く方法を聞いておいた。
メンデス・アルバーロという駅からバスが出ているから、それに乗れということだ。


何しろ

「もし一日しかスペインにいられないなら、迷わずトレドを目指せ」

という格言があるらしい。移動は面倒だが、この機会に行っておくべきだろう。


トレドに行くのは午後からということにして、午前中は美術館巡りをすることに決めた。

何と言ってもマドリードはプラド美術館だ。世界三大美術館に数えることもあるらしい。
多分今回で、「世界X大美術館」美術館は制覇したと思う。

「世界三大」とか「四大」っていうのは色んな人が言い出すので、沢山あるのだ。

ちなみに聞いた限りの世界三大(?)美術館一覧

美術館 都市 代表作品
ルーブル美術館 フランス パリ モナリザ、ミロのヴィーナス、サモトラケのニケ
大英博物館 イギリス ロンドン ロゼッタストーン
メトロポリタン美術館 アメリカ ニューヨーク
故宮博物院 台湾 台北 翡翠の白菜
エルミタージュ美術館 ロシア サンクトペテルブルク
プラド美術館 スペイン マドリード ラス・メニーナス


ところで地下鉄のホームでこんな看板を見つけた。

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ふーむ。脳トレ、スペインでも流行ってるのか。すごいな任天堂。。


(2)プラド美術館

プラド美術館は地下鉄のバンコ・デ・エスパーニャ駅とアトーチャ駅のどちらからも歩いて10分ぐらいかかる。建物が普通に道路に面しているので、気づかず最初通り過ぎてしまった。


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▲プラド美術館


正面入り口は工事中で、こんな張り紙が…

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「博物館への入り口はgoyaのドアによって行う」


えーと。。ゴメン、意味が分からない。
でも見るからに工事中なので、きっと矢印の方向に進めということなのだろう。


というわけで「goyaのドア」を経由してプラド美術館に入る。


さすがに中は広い。時間も無限ではないので、流す感じで回ってみる。

有名なのはベラスケスの「ラス・メニーナス」。
国王夫妻の視点で描かれた、マルガリータ王女を中心とした女官たちの絵だ。
左側にいるのがベラスケス本人らしい。

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▲ラス・メニーナス(ベラスケス)

個人的にはマルガリータ王女よりも、右下の犬を踏んづけている女の子と、その隣のもう少し何とかならなかったのかと言いたくなる女官の顔。不細工にも程がある。

ラス・メニーナスの絵は後で出てくるので覚えておこう!


続いて、ゴヤの作品。同じアングルで、一人の女性を服を着た状態と脱いだ状態で描いた「裸のマハ」と「着衣のマハ」。同じ部屋に並んでいる。

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▲マハ×2(ゴヤ)

ナルホド、こういう見せ方はすごいエロティックだ。
ゴヤはコレを描いて教会から呼び出されたらしい。

すべからく、画家というのはその画力をエロスで表現せずにはいられないのだそうだ。
ピカソもその手の絵は沢山残しているし、写楽も別名で春画を残している。
日本の漫画家で言えば手塚治虫や藤子不二夫も例外ではない。



ゴヤの作品で有名な作品に、「我が子を喰らうサトゥルヌス」がある。サトゥルヌスはギリシア神話のクロノス、英語だと土星のサターンに相当する。美術の資料集にも載っている有名な絵だが、これがプラドにあったのは知らなかった。


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▲我が子を喰らうサトゥルヌス(ゴヤ)

昔の画材は色んな色を出すため、訳の分からない薬品やら何やらを混ぜ込んでいたらしく、そのせいで失明したりと体に悪影響を与えることも多かったようだ。

耳に障害をきたしたゴヤは「聾者(ろうしゃ)の家」を借り、壁に14枚の黒い壁画を描いたらしい。どれもものすごい迫力というか怨念すら感じる絵だが、壁面に描かれたため保存が難しく、プラドの外には出せないらしい。で、そのうちの一つがこのサトゥルヌス。


あとはエルグレコの作品が沢山あった。一番有名なのは何故か自画像だがw、縦長の宗教画を多く残した画家だ。光と影の扱いが印象的で、結構気に入ってしまった。

エルグレコはスペイン語で「ギリシャ人」という意味らしく、本名はドメニコス・テオトコプーロスなんだそうだ。ペンネーム「ギリシャ人」のギリシャ人ってすごいな。芸名みたいだ。

他にはボッシュの「快楽の園」という絵がワケ分からなくてよかったかな。ああいう絵を延々と描き続ける心理状況とか気になる。

下のフロアにラファエロの絵なんかもあった。結構ラファエロの色遣い好きなのだ。


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美術館のカフェで食べたチュロス。チュロスはなんとスペイン料理らしい。へー。
砂糖やシナモンはかかっておらず、甘くない。

サクサクしていて実に美味しい。

せっかくスペインに来たのだから、もうすこし前衛的な絵も見てみよう。
ということでやってきたのがここ、国立ソフィア王妃芸術センター。

プラドから歩いて行ける。先ほどとはうって変わって現代アートな感じだ。


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▲建物からしてもう前衛的?



最初に間違って入った企画展では、何やら金属と光と影を駆使して作り上げた立体的でテクノな感じの展示あった。これはこれで面白いかも知れない。



(3)ゲルニカ

さて国立ソフィア王妃芸術センター(長いな)には、昔プラド美術館の別館においてあったというピカソの「ゲルニカ」がある。

スペイン内戦時に、ナチスによって世界で初めて無差別空爆を受けたゲルニカの街を題材に、パリ万博に向けて描かれた有名な作品。

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とりあえずこの絵はデカイ。見上げる感じだ。
白黒なのは制作期間が短かったからなんだろうか。

悲壮感は感じるけど、俺には意味も良さもサッパリ分からない。

他にもピカソの絵が沢山展示されており、ジョアン・ミロやサルバドール・ダリの絵も展示されていた。

ダリの絵をちゃんと観たのは初めてだけど、結構いいね。
カラフルな夢の中の世界みたいだ。まぁこんな夢みませんけどw


キュビズムとかシュールレアリスムとか、凡人には分からないし分かる必要もない気がするけど、面白いなぁとは思う。こういうデフォルメ的なモノは、写真では出せないものだからね。極論言っちゃうと「写実的な絵」であれば、写真でいいわけで。

絵画っていうのは、実在しないイメージでもビジュアル化できるという点で、非常に可能性があるなと感心するわけです。

もちろんそれは彫刻にも言えて、NYのメトロポリタン美術館ですごいなーと思ったのは黒檀に彫られたマコンデ美術に代表されるアフリカの芸術品。

ぱっ と見た感じいびつだったり、デッサンがおかしかったりするんだけど、それで文明として遅れてるとか劣っていると解釈は間違ってるわけで。何故かというと、 別に日本人やアメリカ人なんかはそういう文化を通ってないのね。遅れた文化だとしたら「先進」の文明圏はそこを通っているはず。

ピカソがアフリカの芸術に触発されたように、やっぱり彼らの作るモノは視覚的にインパクトがすごく大きいし、実際それも狙って作ってるんだろうなぁと思う。


ただ、こういう類の芸術、特に絵画の価値って「その場に行かないと観られない」時代と、今みたいにネットなり書籍なりでいつでも観られる時代とで、随分変わったんじゃないだろうか。

芸術家とか評論家とか、細かい違いを語れる世界の人は別として。

例えば絵の価値を100としたときに、構成とか色彩とかのインパクトが少なく見積もっても80以上を占めると思う。

も ちろん筆遣いとか実物の色合いとか(PCでは実物の色を正確に表現できない)そういう実物を見ないと感じられない価値はあるけど、せいぜい20以下だと思 う。確かにホンモノは違うんだけど、現物を見るしか無かった時代に比べれば「どんな絵なのか」「どんな色なのか」がどこにいても分かる。

何が言いたいかというと、Web上の絵と実物の絵って、金額的には通信料を加味しても何万倍、何億倍するだろうけど、「絵」から人間が受ける情報の差というか、本質的な価値からいうと2倍も3倍も違わないんじゃないかなと。

逆に言えば今は過去の名画を数万、数億分の一のコストで擬似的に手に入れられるわけで、そういう時代ってすごいことなんだなと感じた。

じゃあワザワザ見に行く必要はないのかといわれるとそんなことはない。

「それが目の前にある」という事実に歴史を感じたり、実物の大きさや扱いなど、写真からはうかがい知れないことはある。それに感慨を覚えられる人には実物を見る価値は大きい。

でも実際、そういう所に価値を見いだせないならば、敢えてホンモノを観なきゃいけないほど目が肥えてる人は少ないのかもしれない。


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▲美術館のオブジェ。この鉄線が一定周期で波打つ。こんなものまでメカニカル。


(4)トレドへ

さて、マドリードで特別見たいものは見てしまったので、いよいよトレドに向かうことにしよう。

移動が長くなりそうなので本当はソフィア王妃芸術センターに併設されているレストランで食事をしたかったんだが、開いていない。

……もう昼の12時なんだけどなぁ。。


スペイン人には(どうもイタリアやギリシャにもあるので、ラテン系共通か?)「シエスタ」という習慣があって、14時〜16時の間はおやすみタイムとなる。ホントに昼寝する所もあるらしい。素晴らしい習慣だ。客として使う側は不便きわまりないが。


言うほどは感じなかったが、この時間帯は休むお店が増え、人通りは激減する。
そんなわけで、この時間帯はあまり出歩くなとガイドブックに書かれている。

レストランのランチタイムも大体13時〜だし、その分営業時間は全般的に後ろ倒しになって閉店は24時というのが普通。日没も遅れるので、日本より時間の感覚が2時間ぐらい遅めなのだ。


というわけで飯は諦めてソフィア王妃芸術センター近くのアトーチャ駅へ移動。
ここはマドリード最大の鉄道駅である。

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タイミング次第だが、いい特急があれば乗ってしまいたい所なんだが…


って……



なんだこりゃ?


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えーと。南国??


まるで植物園になっているようだが、一応ちゃんとした駅らしい。
行き先ごとに出発時刻の表示がある。

残念ながらトレド行きの電車は1時間半ぐらい来ないので、先ほどホテルの案内所で聞いた長距離バスを使うことにした。


ちなみにアトーチャ駅は、地下鉄とRENFE(国鉄)の2種類の駅があるので注意が必要だ。
ここから地下鉄駅に移動するのに道が分からず、滅茶苦茶手間取ってしまった。


地下鉄を乗り継ぎ、メンデス・アルバーロ駅へ。
この駅は南バスターミナルに繋がっていて、近郊都市へ向かうバスに乗ることができる。


窓口でトレド行きのチケットを購入。5ユーロしなかったと思う。
行き先によって窓口(バス会社)が違うので注意が必要だ。

しかし…バス乗り場は60番まであるのだが、どこからなのか分からない。

スペインはスペイン語なのだが、予想以上に英語が通じない。
何しろ、駅の表示板もほとんど英語がない。


チケットに「27」と書いてあるので27番の乗り口からバスに乗るんだと思ってたんだが…

いつまで経ってもバスが来ない。
あと3分で出発なんだが。


27番、本当に合ってるのか?



ふと、チケット売り場の真裏にあった電光掲示板の存在を思い出す。


……乗り場は…電光掲示板か!!!?



ダッシュで電光掲示板を見に行くと、予感は的中。空港と一緒で、便名とゲートがひも付けられて表示されている。



トレド行き…61番…か。




え。61番!!??



バス乗り場は60番までだろ??



と思って逆方向を見ると、何とトレド行きのバスだけ、ひっそりと61番以降のバス乗り場が用意されていた。



こっちかよっっ



慌てて走り回り、何とか滑り込みで間に合った。

出発30秒前。かな〜〜り危ない橋だった。。





しかし疑問が残る。


じゃあ27番はナニ…?




適当な椅子に座ってしばらくして気づいたのだが、座席に数字が振ってある。



…27は座席番号だったようだ。




指定席だったのか。。。


初日からこの調子。心の底から先が思いやられるなぁと思いながら、バスの中でしばしの休息を取った。

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