第2章 モスクワ 赤の広場 TOPへ 第4章 黄金の輪 ウラジーミルとスズダリ
第3章 モスクワ クレムリン
1.クレムリン
午後は引き続きモスクワの中心部・クレムリンの観光へと進んでいく。
クレムリンとは「城塞」のことで、ソ連時代も含めたロシアの政治的中心地だ。
モスクワ河畔に建てられた巨大な三角形(正確には五角形)の赤い城壁に囲まれた敷地は、ロマノフ王朝のツァーリ(皇帝)の居城として発展した。
クレムリンの入口は、トロイツカヤ塔とボロヴィツカヤ塔の二箇所で、我々はトロイツカヤ塔から入城した。
クレムリンの内部だが、一般人が歩けるのは基本的に歩道だけで、至る所にロープが張ってある。
横断歩道以外の場所も渡ることはまかり通らず、道を外れると即刻銃を持った警備員に狙撃されるので、自殺願望の無い一般人は気をつけるがよかろう(嘘)。
でもはみ出るとホントに笛が鳴ります。天才柳沢教授のような動きを心がけ、決して横断歩道を斜めに渡ったりしないでください。
てくてくと歩いていくと、巨大な大砲が見えてきた。「大砲の皇帝」という名前を持っているらしい。
当時最大の口径を誇っていたそうだが、一度も発射されることはなかったそうだ。
ちなみに下部にライオンが掘られているが、どこか間抜けというかライオンに見えない。ロシアにはライオンがいないので、空想で書かれた物らしい。どちらかというとクマっぽいな。
大砲の先には、巨大な青銅の鐘があった。通称「鐘の皇帝」で、これは世界最大。
高さは6メートル、何と重さは200トン。こんなデカイものがつり下げられるのだろうか?と思ったが、結局この鐘、鳴らされる前に火災があって、火を消そうと水をかけたら割れてしまったんだそうだ。
成程、裏に回ると見事に割れている。破片の重さも半端じゃなくて、11トンある。
鐘の近くには、モスクワでかつて最も高い建築物だったイヴァン大帝の鐘楼がある。高さは81メートル。
その奥には、タマネギ頭…にしては下半分が欠けている、「ねぎ坊主」ならぬ「かぶと坊主」の屋根を持つウスペンスキー大聖堂がある。
ここは日本語にすると「聖母昇天総主教座大聖堂」という由緒正しい聖堂で、歴代ロシア皇帝の戴冠式や、ロシア正教総大主教の葬儀などが行われる場所だったそうだ。
内部は黄金に輝くイコン(聖像画)で埋め尽くされている。
クレムリンにはいくつかの聖堂があるが、我々はブラゴヴェッシェンスキー聖堂、アルハンゲルスキー聖堂(中では賛美歌を聴いた)と周り、本日のハイライトであるダイヤモンド庫・武器庫と巡る。
【コラム】ロシア正教について ところで、ロシアはキリスト教の国だが、宗派はカトリックでもプロテスタントでもなく「ロシア正教」ということになっている。 ソ連時代、共産党は宗教を徹底的に排除した。教会は破壊され、司祭達は殺された。今の教会は、ソ連崩壊後文字通り「復活」したことになる。 そのため、信心深いキリスト教徒というのも今のロシアにはあまりいないらしい。最近は学校でも宗教の時間というものが復活したらしく、今の大人よりも子供の方が色々詳しいんだそうだ。 ロシア正教というのは、元々ビザンティン帝国を中心とする東方正教会(ギリシア正教)を継承する宗派だ。 教皇を頂点とするカトリック、万人司祭主義を標榜するプロテスタントと異なり、東方正教会は一応はコンスタンティノープル総大主教を首位とするものの、基本的に互いは独立の関係にある。 ロシア正教で一番偉いのはモスクワ総主教になる。 「ねぎ坊主」と呼ばれる独特の屋根を持つ教会建築は、炎を意味しているらしい。浅草のアサヒビールの上にある「炎のオブジェ」と一緒だ。 (あれはあれで黄金のうんちとかビールの泡とか言われてるが、有名なフランス人デザイナーの作だそうだ。ちなみにあのオブジェが倒れているのは、「日当たりが悪くなる」という苦情への対処らしい。もうデザイナーとか芸術家とかそういう人たちを俺は信じない。) 教会の中にはイコンと呼ばれる独特の画風で描かれた絵がある。卵の黄身なんかを混ぜたテンペラという絵の具で描かれる宗教画で、大体キラキラ金色に輝いている。ちなみにこのイコンというのはパソコンなんかでよく使われる「アイコン」の語源だったりする。 |
2.ダイヤモンド庫
(個人的に)本日最大のスポット、ダイヤモンド庫だ。
実はダイヤモンド庫に入れるからこのツアーを選択したと言っても過言ではない。
クレムリン武器庫に併設されたダイヤモンド庫は、ロマノフ王朝がかき集めた宝石類が集まった撮影禁止の世界最高級の宝石保管庫だ。
厳重なチェックや高額な入場料金、入場制限や予約制度などもあり、ここを行程に組み入れているツアーはどの旅行会社にもほとんど無い。
にもかかわらず、ネットで検索してもガイドブック(まぁ地球の歩き方ぐらいしか存在しないが)を見てもここは見ておけ!という意見が多いのだ。
ここではカメラ、携帯電話、傘、上着などはすべて預けてから入場することになる。(傘は武器になるからか?)
今回はちょっと離れた地下の武器庫の入口で荷物を預け、地上に戻って隣の入口からダイヤモンド庫へ入った。
この面倒さが、時間に厳しいツアー客を遠ざける原因なのかも知れない。何度もロシアに来ているという添乗員も、ここには滅多に来ないと言っていた。
入口で持ち物チェックを受け、いざ入場。
中は、展示スペースのみに光が当たる、さほど広くない暗い空間だった。
広めのコンビニ一つ分か、それよりちょっと広いぐらいだろうか。
ダイヤモンド庫は、入口と出口が別になった四角い部屋と、その奥の通路状の部屋に分かれる。
四角い部屋は「回」の形をしていて、外壁と内壁にそれぞれ展示物が並ぶ。
内側は、純度は低いが発掘された状態の100個の金塊とプラチナ塊が無造作に並べられたエリア。
世界最大の「金の三角形」と呼ばれる金塊なんかもある。
中心には純金の延べ棒がガガガンと積まれていて、それから動物などの形に見える「変った形で発掘された金」が展示されている。
「ウサギの耳」や「ラクダ」など、言われてみればそうかなという石が揃う。
「メフィスト」と呼ばれる小さな金塊は、確かにかぎ鼻であごひげを生やした男の横顔に見えて面白い。何でもこの形、人工か自然かでかなり念入りな調査までされたんだそうだ。
ちなみにこのダイヤモンド庫、説明に類するものが一切置かれていない。
解説がないと並んでいる物が何だかさっぱり分からないのだ。プラチナだって、聞かなければ銀の塊に見える。
でもこのプラチナコレクションは何の説明もなく「世界最大のプラチナコレクション」なのだそうだ。なんだここは。。
さてメインのダイヤモンドは、入口からすぐの壁の一辺に並んでいる。
ダイヤモンドの原石から、削られてカットされ、宝石となるまでの過程が大量の実物で語られる。
繰り返すが、解説文は一切無いのでコレが何なのかはガイドがないと分からない。俺は途中の透明な石をクリスタルか何かだと思っていたのだが、どうやらカット前のダイヤだったらしい。
奥には、無造作に盛り塩のように積まれた一粒一粒が極上のダイヤモンド。
「醤油ができるまで」なら途中の過程は大豆で良いが、ダイヤの作り方は途中の過程もダイヤで表現。この展示、いくらかかってるんだろう。。
他に、「ダイヤの粒で作ったロシアの地図」なんてものもあった。
結構でかいんだよねコレも。。モスクワの部分が赤くなってたかな。ルビー?
とにかく輝きが違う。間違いなく世界で一番高価な地図。
ダイヤモンドが並んでいる辺の向かいに当たるエリアには、巨大サファイアを使った「ブリリアントの羽飾り」、巨大な四角いコロンビアのエメラルド、その他トパーズ、色の付いた希少ダイヤを使った指輪やネックレスなど豪華な装飾品の数々。
そして奥の部屋。
数え切れない程のダイヤモンドを使った、ロマノフ王朝の至宝が並ぶ。
中にはブラックダイヤなんてものもあった。文字通り真っ黒で、そんなに綺麗なもんでもないが。
目立つのが、巨大な深紅の宝石スピネルを中心にあしらい、ダイヤはもちろん色とりどりに輝く宝石で周りを飾った大きな装飾品。
ここまででかいと何だか分からないんだが、目が眩むとはまさにこのことだ。
女帝エカテリーナ2世の戴冠式に使われた王冠は、もう何が何だか分からないぐらい大量のダイヤモンドで覆われている。
大粒の真珠も大量に使割れている。重さ2kgらしい。あれだ。六甲のおいしい水のペットボトルぐらいだ。頭頂部に飾られた赤い宝石はやはりスピネル。
そして何よりここにはエカテリーナ2世の笏がある。
この王笏の先には伝説のダイヤモンド「オルロフ」が装着されているのだ。「インドの神の目」と呼ばれ、世界を渡り歩いて持ち主を次々と怪死させ、エカテリーナ2世の愛人オルロフの手に渡った189カラットの悪魔のようなダイヤモンド。でかいというか分厚いというか。これだけ巨大だと、思ったほど輝いてもいない。
アエロフロートの説明によれば、スピネルの王冠・オルロフの王笏、そしてこれまた巨大な真っ青のサファイアの着いた権標の三つが、白・赤・青のロシアの国旗を表しているんだそうだ。
ちなみにこれら宝石類の所有者は王朝ではなく、国家の物らしい。
【ダイヤモンドの雑学】 ダイヤモンドの価値は4つのCで表現する。カラット(大きさ)、カラー(色)、カット(加工)、クラリティ(透明度)だ。ちなみに1カラットは0.2g。 ダイヤモンドというのは元素記号で言うと結局タダの炭素に過ぎないんだが、故に火を付けると燃える。火事には注意だ。 また硬度10を誇る地球上で最硬の鉱物なのだが、これは「引っ掻き」に強い=傷が付かないというだけで、衝撃に強いという意味ではない。 だからハンマーなんかで殴ると意外ともろいらしい。いや、やったことはないけどさ。 実際には、原石の中でも宝飾品として使えるダイヤはごくごく一部らしい。駄目なやつは工業用として使われる。 ガラスを切断したり、ダイヤモンドを削ったり。ダイヤモンドを加工(カット)できるのは、無論ダイヤモンドだけなのだ。 |
3.武器庫
ダイヤモンド庫から出た我々は武器庫入口の荷物置き場で上着をゲットし、そのまま武器庫へと向かう。
ここはその名の通りかつては武器を作ったり保管したりしていた場所なのだが、モスクワからサンクトペテルブルグに遷都が決まった際にここの武器を持ち去ったので、空いたスペースを宝物殿にしたらしい。こうしてクレムリンの武器庫はロシア最古の博物館となった。
中にはロシアの誇る金銀財宝類が所狭しと保管されている。
武器庫内部はいくつかのエリアに分けられているのだが、どこもかしこもキンキラキンだ。
武器庫のハイライトは色々あるが、やはり注目はロマノフの至宝「インペリアルイースターエッグ」だろう。キリスト教ではイースター(復活祭)の時期になるとカラフルに塗った卵を交換して飾る風習があるが、ロマノフ家はその財力にあかせて宝石商にして天才デザイナーカール・ファベルジェに超豪華イースターエッグを作らせた。それが世界に54個(現存50個)作られたと言われる、インペリアルイースターエッグである。黄金や宝石をちりばめたそのあまりの豪華さ故に、現在では誰も作ることができないと言われている。
特色は宝石商ならではの豪華な装飾もさることながら、個々のエッグには必ず何らかの「サプライズ」が仕掛けられているのがポイント。
中から出てきた孔雀がゼンマイで動くなど、何かしらの工夫がちりばめられている。
ちなみに2004年にニューヨークで9個のイースターエッグがオークションにかけられたが、安くても3億5千万円、高い物だと20億円の値が付いたとか。
年末ジャンボ宝くじで1等当たっても一つも買えないのだ。
武器庫にはそのうち、10個のイースターエッグが展示されている。
内訳は、以下の通り。
○時計エッグ
(Clock
Egg)
○クルーザーの模型入りヘリオトロープエッグ
(Helio-trope egg with model of the "In memory
of the azov" cruiser)
○シベリア横断鉄道エッグ
(Egg with model of Trans-Siberian
Express)
○クローバーエッグ
(Clover Egg)
○モスクワクレムリンエッグ
(Moscow Kremlin
egg)
○ロマノフII世の子供たちの肖像エッグ(アレクサンドル宮殿入り)
(Egg with portraits of Nicholass
II's children)
○アレクサンドル3世エッグ
(Egg with model of Alexsander III
monument)
○standardヨットエッグ
(Egg with model of "Standard"
Yacht)
○ロマノフ家300年祭エッグ
(Romanov Tercentenary egg)
○イーゼル付エッグ
(Egg with
miniature
easel)
頑張って写真を撮ろうとしたが、ブレるブレる。
室内、しかもガラスごしだと大した絵にならない。ここはパンフレットを買って正解だった。
その他に武器庫には10kgの黄金のお盆とか、鎧や武器などの文字通り武具類(こんなの来て動けんのかよという代物)、ギリシャ神話をモチーフにした皿、ロシア帝国の皇帝の玉座や王冠、ドレスや巨大な馬車など、まさに豪華絢爛な宝物殿だった。面白かったのは毛の着いた王冠で、やはりお国柄なのか王冠も防寒対策がバッチリだ。たけしが「キングスライムにしか見えない」とか言っていたが確かにその通りかもしれない。
▲鎧 ▽キングスライム
▼豪華絢爛の馬車(ただしエカテリーナはデザインが気に入らなかったらしく未使用)
それにしても、俺も結構早く回りたがりだがツアーはやっぱり「次から次へ」な感じだ。
もう少し見たかったなここは。。
4.キエフ風カツレツ
武器庫を出て、夕食タイム。
夕食はキエフ風カツレツだ。
キエフというのはウクライナの首都で、かつてはソ連に組み込まれていた。
ウクライナは現在もCIS第二の国だ。
キエフ風カツレツはライスと一緒に出てきた。
昔フランスで食った時もそうだが、ヨーロッパのライスはあまり旨くない。
タイ米のような長粒種ではないのだが、どうも味もイマイチだし食感もパラパラして駄目だ。
例えるなら…芯のない炒飯?
どうも米の種類もさることながら、炊き方が違うらしい。どちらかというと「茹でる」に近いようだ。
メインのカツレツだが、ラグビーボール状でカレーパンぐらいの大きさのチキンカツレツ。
中に何かが入っている。野菜かキノコだろうか?
デザートはイマイチだったかな。バタークリームは俺は駄目だ。
食後、バスはホテルに戻る。
結構時間があるので、ホテルの周辺をうろついてみることにした。
ホテルの側にはモスクワ川が流れていて、ライトアップされた大きな橋が架かっている。
橋を渡って対岸まで歩いていったが、すぐに住宅街に出てしまった。基本的に何もない町だ。
鉄道関係者のたけしがどうしても地下鉄を見たそうだけどはっきり言えないようなので、察してキエフ駅まで行ってみる。
だが、入口で警備員が関係者以外をはじいているようだったので断念した。
たけしによればモスクワの地下鉄は世界でも有数にスゴイらしい。というのを、数日後サンクトペテルブルグで言っていた。なんでもっと早く言わないんだろう。
ホテルの周辺は何というか結構ピリピリしていて、旧共産圏の雰囲気がまだ残っている感じだった。
陰気で物々しい雰囲気は、何となく俺がこの国に求めていた物かもしれない。野良犬の面構えもどこか外の人間を歓迎していないように見える。
駅周辺に売店がたくさん並んでいたのだが、物の売り方が他の国と明らかに違う。
ハムやチーズ、パンなどの食料品、酒類もある程度売っているのだが、全て手に取ることはできない。
手に取れる距離にはあるのだが、全てガラスの壁に遮られて店員からしか手が届かない。
こちらが品物を勝手に持って行っても、カウンター越しの店員は追いかけて来れないのだから確かにこうなっているのが当たり前なのかも知れないが、人間不信がベースの商売になっている気がしてちょっと身構えてしまう。
ちなみに頑張ってウォッカを買おうとしたが、言葉の壁に遮られて野望は砕け散った。
ウォッカは「ヴォトカ」と発音するので気をつけよう!