第7章 南大門市場

 

1.ロッテ免税店〜ゼブラ教の謎〜

ロッテワールドと同じ駅から、というか、地下を通ってそのままロッテ免税店のあるビルに行ける。免税店は最上階。さっそく、昇ってみる。入り口で免税店のチケットを見せると、お土産に万年筆もどきのペンをくれた。

中に入ると、突然キムチ屋がある。めちゃくちゃ高い。クロネコヤマトの店で、日本まで直接送ってくれるのだそうだ。クール宅急便。いつも通り日本語で話しかけられ、「買う」ことを前提に話を進めるため、やばいと思ってその場を去った。「一週回ってから、また来ますんで」が通じるというのは、いいことなのかもしれない。

中は結構広いため、一応一周して、大まかに品物のジャンルなんかを把握する。各人目にとまったものを1つくらい買う。一つ一つの店をもう少し見てもいいのだが、ちょっと荷物が重い。そこで、我々は奥の休憩室に入り、一人は荷物版、二人が外で買い物、という作戦を取ることになった。ところが3人はロッテワールドで結構歩き回り、疲れていたのでとりあえず本当に休憩することになった。休憩室にはただで飲める「何か」があり、「何か」は日本で飲んだことのあるどれにも似ておらず、むやみに甘く、はっきり言ってゲロマズだった。いながきがよりによってこの飲み物をバッグにこぼし、大惨事となるというハプニングも起こった。

さて、最初は俺といながきが店を見に行くことになった。だが、休憩室から出た我々が見たものは、恐るべき光景だった……!!

……?全ての店の店員が全員起立して、通路のほうを向いてるぞ??

バックに知らない曲が流れている。まさか、……閉店???

結局、3人はほとんど何を買うこともなく、客の誰も居ない免税店フロアを、エレベーター向かって並んで歩きつづけた。通路の側には店員がびっしり並んでおり、通るたびに頭を下げて「ありがとうございました」という。ほんとに言う。さながら、大魔王を倒した勇者ご一行である。「大したもん買ってないのに……」

帰り道、地下鉄の中で、免税店で貰ったペンを眺めながら、かなめが恐ろしい事実を告白した。

「実はおれ、中1の時、ゼブラ教だったんだ……」

「ゼブラ教??」

すると、いながきまでそれに習うように後を続けた。

「俺もなんだ」

「??????なんだよ、ゼブラ教って」

「ゼブラ教って言うのは、シャーペンから筆箱、鉛筆から消しゴムまで、全ての文房具をゼブラ製品で固めるという教団だったんだ」

なんと言うことだ。彼らがそんな邪教に入信していたなんて。

「ゼブラ教は、おれといながきと市川(中学時代、破壊的に理科が得意だった男)が始めたんだけどさ、」

「きょ、教祖だったのか?」

「結局最後まで信者は3人で、2年になった時に消滅しちゃったんだ」

やはり、そのような危険な思想は、破防法が適用されてしかるべきものだったのだろう。

 

2.南大門市場〜たいやき〜

ホテルに戻ったわれわれは、最後の晩餐を迎えるべく、南大門市場へと足を運んだ。旅行会社の話では、東大門市場が衣料品をおもに取り扱っていたのに対して、南大門は雑貨中心らしい。変なものが見つかるかもしれないと、我々はやっぱりタクシーに乗って南大門市場へと向かった。

だが、南大門市場は我々が思っていたのとはちょっと違う街だった。深夜2時でも7時の新宿並みに人がごった返し、ごちゃごちゃしていた東大門に比べると、そこはあまりにも静かで、人通りが少ない。

さて、せっかく韓国なんだから、焼肉である。前回は自分で焼かせて貰えなかったので、もうすこし自主性を重んじた店に行きたい。かなめが「石焼ビビンバを食いたい」とのたまうので、石焼ビビンバがありそうな店に入った。外のメニューにも書いてある。

さて、店内に入って注文。まぁ、しばらく居たので、もう焼肉だけで充分である。ロースと骨付きカルビを注文し、あとはビビンバ……と思ったのだが、メニューになぜか載っていない。よくみると、石焼ビビンバのところが塗りつぶされている!店員に聞いても、石焼ビビンバはやっていないそうだ。なんということだろう。

仕方なく、焼肉とライスを注文。しかし、ライスは来ない。相変わらず店員が焼肉を焼きはじめる。何か頭に来たので、勇気を出して「自分で焼肉を焼いてもいいか」的なことを伝える。もちろん日本語だ。すると理解したらしく、店員は去っていった。はじめからこうすれば良かった。

焼肉をあらかた食べ終え、「ついにご飯は来なかったな」みたいな話をしていると、来た。ライスだ。焼肉がなくなってからライスが来る。忘れていたんじゃない。多分。そういう文化なのだ。最初に行った焼肉屋もそうだった。

焼肉屋に行くと、焼肉とセットでいろんな野菜やキムチ類がこれでもかというくらいテーブルに並ぶ。もちろん焼肉と一緒に食べるのだが、恐らく、焼肉がなくなった後に、そういうキムチ類と一緒にご飯を食べなさい、ということなのだ。だが、俺はまあキムチが食えるからいいものの、ここのキムチはかなり辛い。結局、おかずがないのと同じなので、ご飯は余ってしまった。

例によって日本語で書かれた店の名刺を貰うと、3人はさびれた南大門の街を歩き、30円のたいやき(これがめちゃくちゃうまかった)をほおばりながら、駅へと向かう。すると、一軒の店が目の前に現れた。パン屋だ。

ご飯が食べられず、まだちょっとお腹がすいていた我々は、そのパン屋の中に入っていった。もう夜も10時である。日本に10時に開いているパン屋があるだろうか? 翌日の朝食と今夜のモノポリーのおつまみとして、パンを幾つか買ってホテルに戻ることにした。

 

3.最後の夜〜逆モノポリー〜

最後の夜は、逆モノポリーをして遊んだ。3人モノポリーはデフレが激しいことが分かり、一人の持ち金を1500ドルから2000ドルにアップしてスタート。逆モノポリーは、コマの進行方向を逆にする、というただそれだけの違いなのだが、結構新鮮で面白い。この勝負は、刑務所の意味合いが少々変わってくるので、各カラーグループに止まる確率が通常と異なってくるのだ。結局俺がライトブルーで軽く優勝したが。

飽きて寝る3人。夢の世界にいながらあやしげな動きをとるいながき。それはまさに……

「せ、セクシーコマンドー??」

かなめが不思議なことを言い出す。

「俺、手が可愛いって言われるんだよ」

もはやどうにもならない。そんな矢先、かなめから重大な事実が告げられる。

「いながきが好きな、○○ちゃんさ、カラオケで……」

「カラオケで?」

「もののけ姫を10回歌うらしい」

「も、もののけ姫10回???」

「しかも、まったく同じ所で音が外れるらしい」

「むぅ、それはすごいな」

「その上、10回歌った後にもののけ姫を演奏させて、歌詞をノートに書き取るらしい。もちろん1回じゃ書ききれないから、3回くらい演奏させるんだって」

「す、するともののけ姫13回…!?」

「その後、家で練習してきたらしいんだが、やっぱり同じ所で音がずれるらしい」

「うーん。なんか、俺○○ちゃんが悪い人には見えなくなってきたよ」

「おれも、ちょっとそれ聞いてファンになっちゃってさ。で、○○ちゃん、いながきにリクエストするんだって」

「もののけ姫を?」

「クリスタルキングの大都会」

「……あの、クリスタルブラックのCMの……?」

「そう」

「すごい奴だな、○○ちゃん……」

 

そして夜が明ける……

 

帰国