最終章 帰国
1.免税店めぐり〜王様のキムチ〜
最終日。午前も早くフロントに集合し、バスに乗り込む。免税店を二つ回ってから、空港に向かうらしい。キムチは最終日に買ったほうがいいということだったので、そのためにお金を残しておいた。
最初に着いた免税店は、アメジスト(紫水晶)の店だ。アメジストには魔力があるらしい。
別に俺はアメジストを買う予定は無かったのだが、店員はこちらの隙を狙っては日本語で擦り寄ってくる。油断すると、「これはどう?これはどう?」とか言われるので、店員の死角になるような位置をキープ。しかし、韓国人の商売根性は大阪のそれを凌駕するのではないだろうか。あまりにしつこく、買うこと前提で話しかけてくるため、正直途中でいらついてきた。
さて、シスコンいながきはここで愛する妹にお土産を買っていくつもりらしい。この店には、高いものだと数百万円にもなるアメジストの塊から、水晶を加工した1000円くらいのキーホルダーまで売っている。いながきは妹用に、十二支をかたどったマスコットがついている水晶玉のキーホルダーを買っていった。妹は戌なので、マスコットは犬の形をしている。
また、日本で待っている友達が一人いるので、そいつにもここで土産を買っていくことにした。最近首にチョーカーを巻いていることが多いので、ネックレスみたいなものを買っていくことにした。これは紫色のアメジストのものだ。
ここでのお土産は、いながきが一緒に買って友達の分を割り勘にすることにした。
30分ほどいただろうか。次はバスに乗って、キムチ屋へ行く。キムチ屋には色々置いてあるらしい。
しかし、紫水晶の店で水晶を売っているのを見て、一つ疑問に思ったことがある。
もしかして、紫水晶と水晶は同じ物質なのではないだろうか。
巨大な紫水晶の塊は、よく見ると白い部分から濃い紫の部分まで、グラデーションがかかっている。
もしかして、白い部分を水晶として売り、紫の部分をアメジストとして売るのではないか?
ルビーとサファイヤは同じ石の色違いだ。だったら、こういうことがあってもおかしくないかもしれない。
などと、アホな事を考えているうちに、バスはキムチ屋についた。
さて、キムチ屋である。入った途端に説明会が始まる。とうもろこし茶(結構美味しい)を飲みながら、いくつかのキムチを味見し、キムチの種類と値段についての説明を受ける。さらに、5個買うと一個おまけにつけるとか言ってる。もちろん日本語である。
キムチはプラスチックの箱に入っていて、結構重い。まぁ、激辛王としてはやはりキムチを買っていかないわけには行かないので、話をきちんと聞く。いながきはキムチを買うつもりはないようなので、無関心だ。その店には基本の白菜のキムチ、角切り大根のキムチ、そして王様のキムチというのがあった。
王様のキムチと言うのは、かつては宮廷でしか食べられなかったという高級キムチで、普通のキムチが1500円だったのに対して2500円もする。
中には普通の白菜のキムチのほか、大根などのキムチも入っており、梨や栗などの山の幸、魚の切り身やイカなどの海の幸がたくさん入っているとのこと。それらを大き目の白菜でくるんだものが王様のキムチだ。試食すると、確かにレベルが違う。
俺と要はキムチを合わせて10個買い、3個おまけにつけてもらった。最初は白菜のキムチ3個がおまけだったのだが、交渉したら白菜のキムチと王様のキムチを一個ずつにしてやるという。って、それじゃこっちが損じゃん。油断も隙もない。ものすごく嫌そうな顔をしたら、さらに白菜のキムチをつけてくれた。得したんだかどうだか。
その店には他にも食べ物一般が売っていて、韓国海苔(味付け)や、唐辛子、その他さまざまなものが売っていた。かなめは焼肉屋で食べた牛タン用のごま油に感激したらしく、ここでごま油買っていたのだが、なんとかなめはごま油を床に落としてしまい、割ってしまう。危うし!かなめ!
と思ったら、店の人がただで交換してくれた。商売根性剥き出しという印象しかなかった韓国人が初めていい人に見えた。
2.そして帰国<恐怖の飛行機>
そんなこんなで、バカみたいに重いキムチを運びながら、空港へ。飛行機に乗り、例によってイマイチな機内食を食べて何事も無く日本へ戻る……はずだった。
だが、帰りの飛行機は揺れた。
別に、飛行機がゆれるとかそういう話は前に何度も聞いているし、韓国に向かう時だって結構ゆれていたので、驚く必要は全く無かった……はずだったのだ。
そろそろ降りてもいい頃なのに、ずっと上のほうを飛んでいる。
多分、誰もがおかしいと思った。そして、次の瞬間、地上に降りだした。
どうも、「ええい!埒があかねぇ!いっちまえ!」
みたいな、江戸っ子気質のパイロットが思いきりで下降したような印象さえ受けた。
で、揺れる揺れる。ぐわんぐわんゆれる。というより、大揺れしながら落ちて行く。
マジで恐い。でも、飛行機初心者なので慣れてる奴は大丈夫なんだろうと、平静を保とうとする。
しかし。
機内がざわめき出した。
「やっぱり、やばいのか?」
その時、最大のゆれが!
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
あちこちで叫びが聞こえる。
「ほ、ほんとにヤバイのか?」
死ぬかと思った。
3.エピローグ<最後の大失敗>
まあ、死んでないからここにいるわけだが、ともあれ無事に日本に戻ってきた我々は、千葉県民なのに遠い成田の問題点を避難しながら、家に戻ってきた。
帰りに、さっき買ったネックレスを渡してから解散しようという事になった。幸い、その人の家は近い。我々はキムチ一箱とネックレスをお土産として渡し、簡単に土産話をすると家に帰った。
だが……
話はそこでは終わらなかった。
ある時、俺が個人的にそいつの家に遊びに行った時、俺は尋ねた。
「あ、見た?あのお土産」
「あ、見たんだけどさ。あれ、何?」
「何って、アメジストだよ。韓国名産らしいよ」
「ふーん。そうか。あれはアメジストなのか……知らなかった」
なんだ。アメジストも知らないのか。物を知らない奴だな。などと思っていた。
1週間ほどして、いながきと会う機会があった。
「あのさぁ、妹にキーホルダー渡したじゃん」
「ああ、喜んでたか?最愛の妹は」
「なんかさぁ、『入らない』とか言っててさぁ」
「入らない?」
「キーホルダーが入らないって、どういうことかと思ってさ」
「どういうことだったんだ?」
「『きつい』っていうのを聞いて、初めて気づいたんだけど」
「え、まさか……」
「ネックレスのほう渡しちゃったんだよね」
「てことは……キーホルダーがあっちに?」
「うん。犬のキーホルダーが。あいつの干支、未だよなァ」
「羊に……みえるかな?」
「いや……無理だろ」
「しばらく、クリスタルをアメジストだと思って生きていくのか……。早く気づくと良いな」
「そうだね」
「羊に……みえないかな……?
完