第3章 焼肉

 

1.キョンボックン〜言葉は韓国語で〜

朝風呂に入り、11時ごろ出発。目的地は景福宮(キョンボックン)である。しかし、地名は現地語で読もうとする俺と、あくまで「けいふくぐう」と読むいながき。こんなところに世界史受験と日本史受験の壁があるとは。

20分ほどホテル周辺をさ迷い、ついに見つけた地下鉄から500ウォンの切符で景福宮へ。景福宮とは五大古宮とよばれる李氏朝鮮時代の王宮の一つで、李成桂が都を漢陽(今のソウル)に移した際に造営したものとされている。って、ガイドブック丸写しやん。ここは壬申の乱や日韓併合の時に幾度も破壊されたそうである。結構でかい。

入り口で、ちょうど日本語のツアーをやっていたので、耳を傾ける。

「ここは、昔日本から豊臣秀吉が来て、破壊して行きました。日本人、悪いことして来たでしょ?でも、日本の学校では、こういうこと教えないから」

どうも、こういうのはあまり気持ちの良いものではない。ていうか、秀吉の朝鮮出兵くらい、世界史選択の俺でも知ってる。それどころか、入試に出る。かなめは結構知らない事になっていることにショックを受けていた。いながきは相変わらず無関心である。

こういうことにあまり深く突っ込むと、苦情のメールとかが来そうなので立ち入らないが、不快な思いをしたのは確かである。

それはともかく、我々の目的はここにある国立中央博物館の方である。入り口で日本語解説ようの変な機械を借りる。その際、いながきの通学定期が人質に取られた。定期を見て驚いていたが、多分、地下鉄が500ウォンで大概の所にいける土地の人にとって、数十万ウォンもする定期券はカルチャーショックだったのだろう。

さて、しばらく博物館をうろつく。中は小学生の春休みの宿題なのか、うじゃうじゃと走り回っていた。3年生くらいの男の子に韓国語で話しかけられたが、分からないので日本語で返事をすると、嬉しそうに走って行った。そう。ここでは俺が外人である。

かなめは高麗青磁が好きらしく、足早に回る。俺は刀剣とか仏像で止まる。いながきはなんかつまらなそうだ。

韓国の仏像は、日本と違って銅像ではなく鉄像が主流だった様だ。大仏が飾ってある間は圧倒されたが、解説を見ると「鉄像はパーツごとに作って、あとで組み合わせる。継ぎ目があるのが特徴」と書いてある。早い話がプラモデル方式だが、ものが巨大なだけに、繋ぎ目が粗い気がする。

当然ながら全体的に中国文化の影響を色濃く受けているが、造形も日本とはかなり違う。顔が朝鮮系で、日本のどれを見てもたいして変わらない仏像の顔に比べて、この国の仏像は実にバリエーション豊かな顔をしている。

まぁ、仏像話は置いておいて、途中でちょっと休憩。コーヒーの自販機で「ミルクって書いてあったからさぁ」、とかなめが買ってきたのは……ココナッツミルクか?かなめはカフェオレを期待していたらしい。むやみに甘かった。

さて、景福宮入り口でジャンクフードを買う。かなめたちはポテト。俺は……おでん?

まず、ポテトは硬い。狙ってるのかもしれない。フライドポテトよりも、ポテロングに近いかもしれない。

そして、なんといっても驚きなのがおでん。いろんな具が一本の串に刺さって、おでん汁につけて食べるのだが、味としては日本のおでんをすこしくどくした程度。問題は、どの具も「同じ味がする」ことであった。原料が同じで、味付けも同じで、形だけが違うものがいくつかささっている……むぅ。

我々は今回の旅の目的「焼肉」のためにキョンボックンを後にした。

 

2.焼肉〜焼肉屋のおばちゃん〜

腹も減ってきたので、焼肉を食べる事にする。一応、韓国るるぶを持ってきているので、それでチェック。タクシーで最寄駅に行き、店を探す。十分ほどうろつくと、目的の焼肉屋を見つける事ができた。入り口にるるぶの切りぬきが貼ってある。間違いない。

昼飯時をはずしたこともあり、店内はすいている。我々は席につくと、カルビ3人前、牛タン2人前を注文する。そして、飲み物。まさか昼間からビールというわけにも行かない。だが、俺はふと思い出した。「まっこるり」

本場のマッコルリである。マッコルリというのは、韓国のお酒で、色は白く、独特の酸味がある。以前俺がK大の文化祭に行った時に飲んだのを思い出したのだ。

さて、まずマッコルリが登場。大きなつぼの中に入っている。1人前といったのに。まぁ、味は以前飲んだものとさほど変わらないが、幾分か飲みやすい気はする。だからといって、こんなにたくさん飲めるか。俺以外はぜんぜん飲めなかった。

そして、牛タンである。カルビも登場したのだが、何も言わずに店のおばちゃんが牛タンを焼き始める。そして、焼きあがったものから各人の皿の中へ。黙々と食べる3人。サンチューに巻いて食べろと促すおばちゃん。巻く。確かにうまい。どんどん牛タンを焼くおばちゃん。義務的に処理する3人。牛タンが底を付くと、休む間もなくカルビをはさみで切り、焼いていくおばちゃん。やはり義務的に食う3人。わんこそばみたいだ。どう見ても焼けている焼肉に手を出す俺。取った焼肉を無言で網の上に戻すおばちゃん。まだダメらしい。

どうも、韓国人は日本人が焼肉を焼けないと思っているらしい。韓国人が客としている時には何もしないが、日本人だとしゃしゃり出てきて肉を焼き始める。俺らにやらせてくれ!!心の叫びも空しく、全ての肉を網の上に載せ、焼きあがるとおばちゃんは満足そうに帰っていく。

ファミレスなんかで、数人でいるに店員がコーヒーのお代わりなんかを入れに来る時、会話が止まる現象があるだろう。あれと一緒だ。常に目の前に店員がいると、気まずくて仕方ない。

その後、俺といながきは石焼ビビンバを頼んだ。石の器を熱したものに入った韓国風交ぜご飯。これが絶品。考える暇もなく勢いだけで食った焼肉に比べ、実に味わい深い料理であった。

さて、この焼肉屋で初登場の本場韓国のキムチ。味はというと……確かに美味いが、それ以上にとにかく辛い。結局、激辛道有段者の俺以外は、二人ともノックアウト。だが、やはり美味かった。

それよりも、我々は食後に出てきた「梨」の方に驚いた。あの、秋の味覚「梨」だ。「四季くらべ」の秋バージョンに出てくるくらいだから間違いない。梨は秋の果物なのだ。

我々は「何故3月下旬に梨?」という疑問について熱く語ったのだが、その時新たなる事実が発覚した。

俺    「夏じゃねえだろ」

かなめ 「うちは夏に梨を食べるんだよ」

いながき「夏って、いつ頃だよ」

かなめ 「だあら、8月とか」

俺    「まっさかりじゃねーか」

 

我々は代金を払うと、名刺(日本語)とコーヒーキャンディ(ロッテ)を貰い、ソウルタワーへと足を向けるのであった。もう一度、今度は自分で焼いた焼肉を食べてやるという野望を胸に秘めながら。

余談だが、俺らが帰るころ、店員が日本語の勉強をしていた。

俺らが店を出るころ、レジのそばで店の親父が包丁で汚い雑巾を切り刻んでいた。

韓国とは不思議な国である。

 

ソウルタワー