第2章 花の都(初日・後編)

 

1.ロンドン・ヒースロー空港〜ロンドンの飯〜

初ヨーロッパ。霧の都、ロンドンである。手続きを済うませ、移動。

パリへの乗り継ぎのターミナルには、バスで移動する。

書き忘れていたが、俺らは添乗員無しのツアー。初ヨーロッパにしていい度胸。
何がわからないって、何をしていいのかさっぱり分からない。

とりあえず、バスで移動するらしいということを見つけ、旅行会社にもらった空港の地図を頼りに
合ってるのかどうかわからないバスに乗り込む。運転手はこれでOKだという。

霧の都というわりには別に霧は掛かっていない。
ただ、空だけが異常にどす黒い。まだ3時だというのに、世界の終焉を予感させるほどの黒さ。

まるでこれからの未来を暗示しているようだ。

バスの中で見知らぬ日本人の女の子に声をかけられた。
年はいくつくらいかよく分からないが、俺らとそんなに変わらないと思う。
俺らと似たような境遇らしく、バスがフランスに行くのかを尋ねてきた。
しかし、オーラは旅慣れしている。女の子一人旅。やるなぁ。

というわけで、ヒースロー空港、ゲートの側に辿り着く。

チェックを済ませると、免税店エリアへ。そこでなんと4時間待ち。

これは結構辛い。ていうかかなり辛い。

フランス行きは夜の8時30分出発なのだが、それはイギリス時間。
日本時間だと朝の5時30分である。

3時間睡眠で、朝一番から出ている俺といながきにとって、これは地獄だ。

しかし、4時間異国の地で寝ているわけにも行かないので、免税店を散策する。

イギリス版モノポリーが売っていた。噂どおりボードウォークがメイフェアになっていた。
欲しかったが、荷物になるので帰りに買っていくことにする。

また、本屋でいろいろな国の旅行ガイドブックを見つけた。

面白いことに気づいた。日本のガイドブックが極端に少ない。他のヨーロッパの国や、中国
などは結構たくさん揃っているのに、日本の本が無いのだ。

どうやら日本がイギリスに旅行に行く感覚に比べると、イギリス人が日本に来るのは結構
マイナーのようである。経済大国日本、歴史の重みがうんぬんかんぬんと言ってもやっぱり
東の外れの小さな島国なんだな、と痛感した。ちょっと寂しかった。

そうこうしているうちに、眠気は絶好調。目をつむれば夢の世界が広がる。

しかしなにしろどうすることもできないので、1万円をポンドに換えて飯を食う。
ロースとビーフサンドイッチ3ポンド。約600円に、コーヒーであわせて800円。結構高い。
イギリスの飯はまずいまずいと言っていたが、とりあえずそれは結構美味しかった。
悪くないスタートだ。

いながきはそれプラス、マックでセットを買っていた。

 

さて、狂いそうな眠さの中、いよいよフランス行きの時間。
待合室で爆睡のいながき。

フランス行きにはブリティッシュ・ミッドランド(BD)という航空会社を使う。
基本的にはイギリスの国内線らしく、来る時に使った飛行機よりはるかに小さかった。
中はどちらかというと新幹線みたいだ。

乗り込むと同時に、物も言わずに眠りだす3人。
気がつくと飛び立って30分。目が覚めるとドリンクサービスで、調子に乗ってウィスキーを注文
する俺。瀕死なのにそんなもん飲んでべろんべろんに酔う俺。入国引っかかるんじゃないだろうな。

 

2.シャルル・ド・ゴール空港〜言葉の通じない国〜

ついたのは、シャルル・ド・ゴール空港。時差があるので出発から二時間。フランス時間22時40分。
日本時間なんか考えたくも無いけど時差は日本から8時間。30時って何時?

とりあえず入国審査を済ませる。あ、成田からの飛行機で前に座っていた人がいる。

それはそうと、入国審査。カードに出身地などを書かなければいけない。

そして。

かなめ、出身都道府県を偽る

生まれも育ちも千葉県松戸市。

なのに、東京都とか書いてある。ちなみにわざとではない

片道5000円の料金をケチって空港からの送迎を拒否した我々は、
言葉の通じない国で知らない駅の近くにあるホテルをこれでもかという大雑把な地図を頼りに探し出す。
しかも時間は深夜11時。

極端に無謀だ。いいのだろうか。

なにしろ、空港から空港に近い駅までどうやっていくのかが、まず分からない。
なにしろ、フランス語。
ボンジュールは喋れるが、つづりすら知らない。

とりあえずバス乗り場を探す。
すると、あったあった。バス停らしい。外に出ると、やっぱりヨーロッパは寒い。
地面を見ると、どうやら雪が降ったらしい。ぽつぽつと白い。

バス停に人が並んでいる。
しかし。

どれに乗るのかがさっぱり分からない。

悩んでいると、フランス人が声をかけてくれた。しかしもちろん言うまでもなくフランス語だ。
ちなみにもっというまでもないだろうが、何を言っているのかさっぱり分からない。

あっけに取られた顔をしていると、フランス人、英語が喋れるかと聞いてきた。

Can you speak Englilsh?

Can you? ではなく Do you? を使わなければいけないと学校で習った気がするが、
別にどうでもいいらしい。

そんなわけで、商業英語研究会(リタイア)のいながきが通訳。
どうにもわからないが、どうやらそこで待っていればいいらしい。

しばらく寒空の下で待っていると、バスが来た。かなめの調べによればそのバスは違うらしいが、
フランス人はこれに乗れと促す。ためらいも無く乗り込む俺。躊躇する2人。しかし、ぼやぼやすると
バスは行ってしまう。仕方なくバスに乗り込む。

はっきり言って、これが合っていようが間違っていようがどうしようもない。
しかも、乗ったはいいが降りる駅が分からない。

一つ目の停留所。降りるのを促すフランス人。それを制するもう一人のフランス人。何も分からない日本人。

ダメダメだ。

しかしどうやら次の駅で降りるらしく、我々は駅に辿り着くことができた。ありがとう。親切なフランス人たち。

メルシー(「ありがとう」初フランス語!)、といってバスを降りる3人。
いながきは商業英語研究会もと代表(リタイア)の誇りがあるらしく、Thank you だった。

そして、我々はフランスにて初の駅に辿り着く。

 

3.ベロネーゼホテル〜やっと寝られる……〜 

フランスに最初についた駅。そこは、「まだ電車走ってるのかよ?」というくらいひっそりとしたところだった。

何しろ、時計は23時を指そうとしている。これは困った。

しかし、電光掲示板を見ると、まだ何本かの電車が来るようだ。我々は切符を買って、乗るべき電車を
駅員に聞き、自動改札を通った。

その時! 事故は起こった。

いながきが、自動改札で引っかかってしまったのだ。
原因は、機械が先に通した巨大なスーツケースを一人分と認識したからであった。

スーツケースだけ通った自動改札。通れないいながき。

さあ、困ったぞ!

選択肢その1: いながきが新しい切符を買ってくる
選択肢その2: いながきが自動改札をくぐりぬける
選択肢その3: いながきのかわりにスーツケースを連れて行く

ここはやはり3番を選びたいところだが……そこに新たにフランス人登場!
駅の入り口から現れたフランス人ジョニー(仮名)は、自動改札をへだてて立ち往生しているいながきに話し掛けてきた。

外人の年は分かりにくいが、一見すると20歳前後と見られる、若い男だ。目が大きくて、愛嬌がある。

いながきが英語で説明すると、切符売り場の人に掛け合ってくれた。新しい切符で、なんとか通れたいながき。
ジョニー(仮名)に感謝の言葉を述べる3人。しかし……

ジョニー(仮名)は、さらに予想外の行動に出た。

なんと、切符を入れずに、跳び箱のように自動改札を飛び越えてこっち側に来たのだ。

驚きを隠せない3人。

何事も無かったようにフランス語で話し掛けてくるジョニー(仮名)。

何も分からない3人。

全て分かったような顔で、ついて来いと手招きするジョニー(仮名)。

ものすごく不安そうな顔のかなめ。

既に止まっているエスカレーターを降りていき、ホームに向かうジョニー(仮名)についていく。

広い。

フランスの地下鉄は、スペースが無駄に広い。歴史があるのか、たんに古いのか、作りがえらくレトロだ。
巨大洞窟のような印象さえ受ける。

そして、ホームに辿り着く。果たして、ジョニー(仮名)は何をしようとしているのか。

すると、ジョニー(仮名)、こちらを一瞬振り返ると、向かいの線路に停車している(多分もう車庫に入る。明かりが付いていなかった)列車に向かって走っていき、ドアを手でこじ開け、中に入っていった。

な、なんだったんだ????

彼は二度と顔をあらわさなかった。

そして、何が起こったのかさっぱり分からない我々の前に、列車が到着した。

 

列車に揺られること数十分。フランスの列車は、降りる時の停車駅の名前を言わない。
駅の名前を覚えておいて、前後の駅を把握しなければいけない。
ま、言われたところでフランス語だがね。

列車の中で、明日の予定について議論。

ちなみに下の会話に出てくる「魔法博物館」とは、俺がガイドブックで
見つけてイチオシした結果、旅行の予定に組み込まれた新興の博物館。魔法グッズの展示や、
手品の公開などをやってくれると書いてあった。

かなめ「明日、本当に魔法博物館行くの?

るしふぇる「そりゃあ、いくさ

いながき「やめようぜ。そしたら明日余計に眠れる

るしふぇる「せっかくフランス来たんだから、睡眠に時間を割くのはよそうぜ。

かなめ「でもさぁ

るしふぇる「行かないと一生後悔するかもしれん。

かなめ「そうやって俺が一生後悔したのを忘れたわけじゃないよな。

るしふぇる「へ?

かなめ「モノポリー!

るしふぇる「あ

 

モノポリー。そう。それは、プレステ版モノポリーのことだ。
プレステでモノポリーが出るということで、当時モノポリーばっかりやっていた我々はそれが
喉から手が出るほど欲しかった。だが、そのわりには6000円がもったいなかった。

ある日、かなめから電話が掛かってきた。

「あのさ、モノポリーが結構安く売ってるんだけど、買ったほうがいいかな」
「そりゃあ、買っとけって。今買わないと一生後悔するぞ。
「そうかなぁ。
「そうだって!

会話が蘇る。そしてかなめはモノポリーを買った。

そして……どうしようもないクソゲーだった。
たけしの挑戦状もビックリだ。スーファミのモノポリー2の出来がめちゃくちゃ良かった分、
我々は(とくにかなめは)戸惑いを隠せなかった。

それ以来かなめは俺を恨んでいる。

 

かなめ「また後悔させるんだろう

るしふぇる「そんなことないって

かなめ「モノポリーは買ったのに後悔したぞ

るしふぇる「ほら。本当は面白いかどうか分からなかったじゃないか。買わなかったら買わなかったできっと後悔してたさ。

かなめ「そうやって俺を実験台にしたな。俺をハムスターにするな!

ハムスター??

実験台は モルモット だろう。

おいおい。

 

そんなこんなで、我々はとりあえずある程度ホテルに近いと思われる駅で降り、出口から外へ出た。
ちなみに、出口はSORTY(ソルティ)である。フランスに行く機会があったら、ぜひ覚えておきた仏単語
BEST5には入るだろう。それくらいの重要単語である。でる単なら、最初のページに記載されかねない。

さて、駅を出る我々。町が広がる。そう、これがパリ。花の都である。真っ暗だが。

しかし、それにしても……寒い。そりゃ、もう日付も変わっとる。なにしろ、地面が凍っている。

とりあえずタクシーを探す。数分後、タクシーが見つかる。旅行会社にもらった地図を見せ、ホテルへ。

と、思いきやなかなか進まない。嫌な予感はしていたのだ。ガイドブックのパリ周辺地図と、ホテルの地図、あまりにも違ってたから。
こりゃあ違う土地だろう、というくらい違ってたのだ。運転手もビックリだ。

しかしそれよりも驚いたことがある。車をとめた瞬間から料金メーターがガンガン上がっていったのだ。これはビックリである。目的地を告げるより早く、荷物を後ろに積むよりも早く、すごい勢いでメーターが上がっていく。しかもおっさん素人なのか、地図を横にしたり縦にしたりとさっぱりわからない様子。

それでもなんとか出発し、何度か道を間違え(ボッタクリか?)、車をとめては地図を確認し、ついにホテルに辿り着いた。思いのほかタクシー代は安かった。

そして…………

ホテル閉まってるじゃん。

何ぃぃぃぃぃぃ?????

何度かノックすると、ドアが開いた。

チェックインは驚くほど簡単だった。果てしなく無愛想なおっさんにチケットを見せると、鍵をくれた。

二階の部屋に辿り着くと、3人は泥のように眠る……

 

第三章 シャンゼリゼの出会い(二日目)