第7章 アフリカ大陸へ(7日目)


1.アフリカ大陸へ 〜空港での事件〜

今日はイタリア⇒エジプトの移動日。
7時に起床し、朝飯も食わずにロビーへ集合。バスで空港へ向かう。

空港では飛行機に乗るまでしばらく時間がかかるので、巨大ジェラートを朝飯代わりに購入し、リラを消化する。
ついでに、水を買って休憩。

余談だが、俺は旅行に行くとものすごい量の水を飲む。
普段はそうでもないのだが、国内国外・季節を問わず、旅行に行くと普段の5倍くらい水を飲む。
何故だかは不明。一日に2リットル〜3リットル飲んでいた気がする。
誰か医学的に解明してくれ。

さて、いよいよ出発だ。
チケットを持って、ゲートへ向かう。

その時。
Isomuraの搭乗券がない事に気付く。
結構まずいのか?
だが、チェックインは終わって、座席の書かれた券はあるため、何とか通るだろう。だが………

ダメだった。
「あのチケットは凄く大事な物だから探してきてください」

と、言われる。

探せって
………見つからないだろう……
そもそも、飛行機があと15分で飛び立ってしまう。
俺らはギリギリでゲートに入ったのだ。

一応戻り、10分だけ探すが、見つからない。
とりあえず、ゲートに戻る。

この旅はここで終わってしまうのか……?
マジでピンチである。

出発時間丁度、ゲートに戻る。

「見つかりましたか?」
「戻って探したけど見つからないです」

そう言うと、ゲートのお姉さんがIsomuraの身体を隈なくチェックし、しばらくして「OK」の声が出た。

そう、我々はエジプトに行けるのである。

それにしても迷惑な日本人だ。
恐らくこの遅れによって数千万リラ以上の損害が出たと思われる。えらいことだ。
もっとえらい事に、数千万リラがどれくらいの価値なのかが感覚でつかめない。
計算したら50万円くらいかもしれない。



というわけで、我々はカイロへと向かった。
機内食は、テリーヌとサーモン。突合せのセロリが限りなく嫌であった。


そして、カイロに到着。
一瞬、砂漠に着陸するかと思った。
それくらい、砂っぽい。明らかに今までの地域とは違う風景である。
さすがはアフリカ大陸だ。

空港に着き、ビザをもらって(エジプトのビザは現地で調達できる)トイレに行くと、いきなりバクシーシを請求される。無視。

バクシーシというのは、イスラムの習慣で「持てるものが持たざるものに」というテーマ(?)の喜捨なのだが、俺はイスラム教徒ではないのでそんなものはやらぬ。

この国ではしょっちゅう起こることなので、いちいち毎回書くのも何なのでまとめて書いておこう。
この国では、何かちょっとしてもらうと、バクシーシを要求されかねない。一番気になるのは、トイレに行き、手を洗うとトイレットペーパーを持ってきて、それで手を拭かせ、それに対してバクシーシを要求されるというものである。日本人的にも「はぁ?」と言う感じだが、多分世界的にも「はぁ?」である。だって、いらないじゃん。そんな奴。

もちろん、各国に固有の文化があるのはわかる。
そして、郷に入れば郷に従えと言うのも分かる。
俺がベッドにチップを置いていかないのは、単に俺が物忘れが激しいだけで、覚えている時は置いていく。
でもそれは、ベッドメイクをしてくれたという行為に対してである。
それは、自分にとって必要だからだ。

でも、トイレは違うだろう。
トイレに入って、手を洗ったときにトイレットペーパーを持ってきて、「これで手を拭け。そして俺に金をくれ」というのは違うだろう。
何しろ、要らないのだ。別にそんなことして欲しくないのだ。
余計なお世話なのだ。
要らない仕事にお金を払う筋合いはない。
大体、空港のトイレに何でそんな人がいるのだ。おかしいだろう。

ラーメンを食いに行って、ラーメンにゴキブリが入ってたから金を払わないとか、そういう次元じゃないのだ。
どちらかと言えば、ラーメンを食いに行って、頼みもしないのにゴキブリが出てきて、

「さぁゴキブリの代金を払え」
と言うのと近いのだ。


と、熱く語ってしまったが、まぁそれはいい。

なにやらものすごい勢いでホテルに運ばれる。両替はしなくていいのだろうか??

エジプトでは、ヘンなガイドがホテルまで案内してくれた。
初め、ガイドが誰だかわからない時点で、Isomuraが彼に向かって「No Thank You!!」とか言ってちょっと喧嘩を売っていた。

ヘンなガイドはムハンマドと言うらしい。自称ハマちゃん。やけに日本語が上手い。やたらと日本の諺を駆使する。すげぇ。

ホテルについたとき、彼は言った。

「明日は8時集合です。遅れたら、1分ごとに罰金10$にしましょう」

高いってばよ。



2.双子のアランとハマン 〜ギザの町〜

入口で解散になったが、ここで衝撃的な出来事が起こる。
なんと、ホテルの銀行が閉まっているのだ。
おいおっさん、バスの中で「ホテルに銀行がある」っていっただろう。

空港で時間を設けてくれなかったのに、ホテルでも出来ないだと?

さすがにカイロの土地勘なんか全く無いし、そもそもこのホテルがある場所はカイロ市内ではないようなのだ。


まぁそんなこと言ってても仕方がないので、とりあえず部屋へはいる。


……すげぇじゃん。



ちょっと、意外だった。
部屋、綺麗なのだ。かなり。
アテネ・ローマと見てきたが、それよりも全然いい感じ。
ユニットバスも使いやすいし。
物価が安いから、同じグレードでもいいホテルが取れるのか?


さて、それはそうと何はともあれ腹が減った。とりあえず、ホテルの隣の喫茶店のようなところで食事を取る。何しろ貧乏なので、どうしようもない。Isomuraの持っているドルで食事。

俺:ハンバーガー
Isomura:オムレツ


を注文。二人で12$と、エジプトの物価を考えればどう考えても高い。何しろ、ガイドブックには「一食10円も夢じゃない」とか書いてある。100倍近く取られてるじゃないか。

ハンバーガーは羊の肉も入っているのか、中々美味しかった。
ホテルで延々と両替が出来ない事体についてIsomuraと熱い議論を繰り広げる。何しろ、どこにも移動が出来ない。旅行会社の不手際を非難する俺と、悪いのは自分達だというIsomura。

で、ホテルに戻ってダメ元でカウンターで聞いてみる。
すると………成功。聞いてみるもんだ。

お金が出来たのだが、今いる場所もわからないし、観光に行くには遅い時間だ。
行けそうなのはカイロタワーぐらいだが、そんなところ別に行きたくない。

というわけで、ホテル近辺での情報収集の結果、近くにデパートのような物があるらしいということで、エジプトの文化を体験するべく、足を運んでみることにした。

さて、ホテルを出ると、見知らぬ(いや、誰も彼も見知らぬのだが)エジプト人の少年たちが声をかけてくる。
内容は「どこから来たの?」「どこ行くの?」「名前は?」程度。
しかし妙になれなれしく、挙句の果てに「一緒に行っていい?」とか言う。名前くらいは名乗ったが、何かおっかないので基本的に無視することにする。いつも通り金目当てに違いない。と思ったのだ。


デパートは、ホテルの前に走る巨大な道の向かいにあるのだが、ここで恐るべき事実が発覚する。

この国には、横断歩道が無いのだ。

少ないとかじゃない。存在しないのである。

だからと言って、車の通りが少ないかと言うと全然そんなことはなく、真昼の国道のようにガンガン車は走る
ガイドブックを見ると、「この国で車に轢かれても、身元の分かる物があればまだしも、最悪の場合はナイル川に流されるか、カイロ大学に解剖用死体として200ポンドで売られてしまう」みたいなことが書いてある。エジプト、恐るべし。

そんなわけなので、慎重に慎重を重ねて道を渡るのだが、相当難しい。俺は「エジプト人の動きに合わせて移動し、盾になってもらう作戦」を編み出し、何とか渡った。Isomuraは何か妙に渡るのがうまかった。

デパートに入る。すると、ものすごい大音量で音楽が鳴っている。会話すらままならないほどに。
水を買うのが最大の目的だったが、とりあえず内部をうろつく事にした。

すると、どうだろう。デパートの中でも、様々な人に声をかけられる。
「エジプトへようこそ」あたりが多く、「日本人?」とか、「ハロー」と言う感じ。見知らぬ人々に、やたらと手を振られる。日本人が珍しいようなのだが、それにしては一瞬で日本人と判断されるので、純粋に日本人が好かれているようである。ちょっとこっちが反応すると、わらわらと寄って来る。30人くらいに取り囲まれて、ちょっと身の危険を感じたが、別にバクシーシを求められるでもなく、単純に俺らとコミュニケーションが取りたいらしい。

握手を求められたり、名前を聞かれたり、と言う感じで、多分さっきの人々もそういう感じだったのだろう。邪険にして悪かったなという気もするが、さすがにこれは面食らう。普通に歩いていて人が凄い勢いで集まってくる。デパートを出る頃には、芸能人だか英雄にでもなった気分である。


って、デパート出ちゃダメじゃん。


再びデパートに入る。もはや、「また英雄になってくるか」みたいな乗りである。
先ほどインターネットカフェを見つけたので、入ってみる事にする。

中に入ると、値段の交渉が始まった。値段表によれば一時間6£Eだが、なぜか4£Eで済んだ。
さすがにここのパソコンには日本語フォントが入っていないので、ホームページがまるで読めないのである。なお、キーボードは、アルファベットの他にアラビア文字が入っていて、お国柄を感じさせてくれた。

ネットでちょっと遊んだ後、ゲーセンを視察に(笑)行く。
と言っても、実はネットカフェがゲーセンの中に入っていたのだが。

ゲーセンのゲームは100パーセント日本製のゲーム。しかも、意外と新しい。
ストリートファイターEXみたいのがあったので、俺が見ていると、Isomuraが後ろでエジプト人の友達を作っている

彼の名前はアラン
20歳の青年だ。
そして、何と彼は………双子だった。

というわけで、双子の相方を連れてくる。
同じ顔の男が現れた。
彼の名前はムハンマドらしいが、「ハマン」と名乗っていた。
アランも何か違う名前なのかもしれない。

アランはIsomuraに、ハマンは俺にくっついてきて、その組み合わせがしばらく続くことになる。

俺はとりあえず、ストIIの母国の人間としての威厳を見せるべく、対戦台に乱入した。
一人の少年と戦う。俺はリュウを選んだ。俺は基本的にベガ使いだが、ここは日本人を代表してリュウを選ばねばなるまい。
特に役に立つわけじゃないが、ハマンがセコンドについてくれている。
結果、圧勝。日出国は太陽の王国に勝利したのである。

で、俺がしばらく一人用でやっていると、さっきの少年が再度挑戦してきた。
使用キャラは、ベガである。
ほう。ベガ使いにベガで、とはいい度胸だ。

結構強かったが、何とか勝利。
その後も、ベガ使いの少年は何度も挑戦してきたが、ことごとく勝った。
勝負の世界は厳しいのだ。
そのうち、ハマンも挑んできたが、それほど強くはなかった。

しかし、数戦後、ベガ使いの少年が、途中でもう一人の少年と交代。
何やら固い防御と、地味だが着実な攻撃で、僅差で敗北
太陽の王国もやるではないか。


いつまでもゲームしてるわけにも行かないので(30円しか使ってないが)、そろそろ当初の目的である水を買いに行く事にする。
で、その話を双子にしたら、ついてくるという。

というわけで、何故かハマンと腕を組んで歩く。
ちょっとヘンな感じだが、これがエジプトの流儀らしい。

ちなみに、Isomuraはアランともう一人のエジプトの少年両方に挟まれ、何やら連行されているようだった。

でも、腕組みは暑いのだ。


さて、相変わらず数十人のエジプト人の手厚い歓待を受けながら、地下の食料品売り場へ。ヒーローのような状態で、水を買う。ついでに、日本へのお土産も買おうと思い、怪しげなお菓子や缶詰などを買う。

双子は親身になって売り場とかを紹介してくれて、中々いい奴らだ。イタリア人はあまり好きになれなかったけど、エジプト人は好感が持てる。

で、そろそろ解散。明日も早いしな。遅れると、罰金らしいし(笑)

Isomuraの提案で、別れの「三本締め」を伝授。
メールアドレスなどを教え、双子のボディガードのもと、ホテルの近くまで送ってもらう。何しろ、道を渡るのが非常に大変なので、走ってる車を止めてくれる双子には大変感謝である。アランは「中には、悪い少年も多いから、気をつけたほうがいい。俺たちみたいなのばっかりじゃないから」と、注意を促してくれた。




もう二度と会う事はないかもしれないが、我々は彼らとの出会いを忘れないだろう。


夜、昨日ローマで買ったシャンパンを開ける。
コルク抜きが無くて困っていたのだが、よく考えるとコルクは要らないのだ。
シャンパンだから。

コップが無いので、ペットボトルの底をナイフで切り取って代用。
禁酒の国で飲む酒は中々の物だった。
冷やしておいて正解。

世界征服の暁には、喜捨は廃止しようと固く心に誓う。



第八章 ギザのピラミッドへ