第8章 ギザのピラミッド(8日目)


1.ツタンカー面

エジプト2日目。
午前7時にモーニングコール。これまでの貧相なものとは打って変わって、アメリカンスタイルの豪華な朝飯だった。ハム・ソーセージなどもあったが、恐らく豚肉は入っていないのだろう。ここはイスラム教国。豚肉厳禁の国である。

ちょっと確認しておこう。
インドでは牛肉を食ってはいけない。
ヒンドゥー教では、牛は神聖だからだ。
一方、イスラム教では豚を食ってはいけない。
イスラム教では、豚は汚れた動物だからだ。


今日の日程は、基本的に一日中ガイドがついてカイロ観光である。
昨日言われたとおり、ホテルのロビーに集合。
しかし………

ガイドがこない。
お前、遅れるごとに罰金追加って言ってなかったか?

だが、そんな事には全く触れず、

「寝坊しちゃったよ(日本語)」

とか言いながら、ガイドのムハンマドはやって来た。暢気な物である。
エジプトとは言え、3月のこの季節、朝はまだ寒いのだ。

我々の最初の目的地は、ムハンマド・アリモスク
「近代エジプトの父」と呼ばれる、ムハンマド・アリのモスク(イスラム教の教会みたいな物)だ。形が結構特徴的で、インドのタージ・マハルのような、タマネギを中心に乗っけたような形状をしている。
モスクについた頃には既に気温も上がっていたが、靴を脱いであがるモスクの内部は涼しかった。天井が高く、かなりの広さのモスクの内装はかなり豪華。

なお、ここはその昔、十字軍時代のイスラムの英雄「サラディン」が砦に用いたらしい。


次に、我々はカイロ考古学博物館へ向かった。
ここには、あの有名な「ツタンカーメンの仮面」が収められている。
予断だがGOOGLEを用いて「ツタン仮面」で検索をかけると30件以上も見つかった。

まぁ、それはいい。

入口のチェックはかなり強固で、ヴァチカンのいい加減さとは大違い。
これは意外だ。ヴァチカンのほうがエジプトよりも厳しそうなのに。

何でも、この国から外に郵便物を出すときには、遺跡の外部流出を防ぐために全てチェックを入れられると言う。
時々、中身を見られたままごちゃごちゃになって行方不明になってしまうケースもあるそうだ。

考古学博物館では、まずツタンカーメンのエリアを先に見に行く。朝早く行かないと、混んでしまうのだそうだ。
途中、内部には色々と面白い物がたくさんあった。三千年前のワインとか、棺桶とか。

Isomuraはアヌビスの像をえらく気に入っていた。確かによくできている。アヌビスとは、「ミイラを作るジャッカルの頭の神」だと思っていたが、この像は全身がジャッカルだった。

メインの黄金の仮面は、博物館の中のさらに特別なエリアにある。
人がわらわら集まっているので、よく分かるのだ。
俺が思っていたよりも、仮面は「奥行き」があった。頭全体をすっぽりと覆うデザインで、見るからに高そうだ。
ツタンカーメン自体は、若くして亡くなったマイナーな王で、そのマイナーさゆえに、墓が荒らされずに財宝がそのまま残っていたのだと言う。棺桶の中に棺桶、その中にまた……という感じで、丁度ロシアの人形マトリョーシカのような形で納められていたらしい。

その後、最近オープンしたと言うミイラ館へ。ここは、入っても入らなくてもいい。中は有料で、学生でも20E£と少々値が張るが、本物のミイラが見られるというので中に入ってみる。アメンホテプ1世、トトメス5世、有名なラムセス2世などのミイラが、本当にそのまま並んでいる。ちょっと感動。



2.パピルスとコシャリ

博物館の後、パピルスを見に行く。これは旅行会社の企画したよくあるタイプの連動企画で、要するに日本人観光客がカモにされているわけだが、まぁこれがあるお陰で安い旅行ができると考えれば、素直に騙されよう。

中に入ると、紅茶が出されて、パピルスの作り方の説明。結構面白かった。なお、普通の紙は50年日本の和紙でも1000年しか持たないが、パピルスは3000年持つらしい。まぁ、3000年も1000年も人間の目から見たら大した差ではないが。そんなに生きられないし。

結構みんなパピルスを買っていた。というか、おれも買った。エジプトの死後の世界と、ヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)の一覧が一枚に描いてあるもの。+300円くらいで、ヒエログリフで自分の名前を入れてくれるのである。

ところで、エジプトの紅茶は、他の国とちょっと違う。
入れ方はよく分からないのだが、多分、葉っぱを直接コップ(と言うかグラス)に入れて、その上からお湯を注ぐのだと思われる。

さぁ、どうなるでしょう?
そう。お茶っ葉が底に沈むのである。

イメージとしては、ティーパックのパックが無い状態を想像して欲しい。
というわけで、飲み終わる頃にはみんな口の中をモゴモゴさせている。
口に入ってしまった葉っぱをかじっているのだ。

以上、パピルスの店でした。


その後、昼飯タイム
ガイドのハマちゃんによれば、ホテルかどこかのバイキングだったようなのだが、10$の提案にみなビビって、結局「コシャリ」の店に行く。
今考えれば10$は別に高くないのだが、まだ我々はエジプトの「観光地価格」に慣れてないのだ。

「コシャリ」というのはエジプトの庶民的な食べ物。我々が入った店のコシャリは、丼のようなものに米・パスタ・マカロニ、そしてその上に炒めたタマネギと豆が乗っかっているもの。それに、トマトソースやチリソース(多分唐辛子を水で溶いたもの)、オニオンソースなどをかけて、かき混ぜて食べる。美味いかどうかは微妙だが、我々は空腹だったのでとりあえずひたすら食った。が、かなりの量があり、しかもそれだけだったので途中で飽きた。みんな残していた。

でも、ドリンクとプリン(カスタードクリームと牛乳を混ぜたような味by Isomura)がついて、日本円で150円ほど。安すぎる。そう、これが「ボられていない」エジプトの基本的な物価なのだ。



3.世界七不思議

というわけで腹も膨れ、いよいよピラミッドへ向かう。

世界的に有名な、世界の七不思議の一つ・ギザの三大ピラミッド
本来、七不思議と言うのは古代の巨大建造物を七つ集めてそう呼んでいた物が起源なのだが、その七不思議のうちで本当に「不思議」なのも、そして現存している物もこの「ピラミッド」だけなのである。


入口でチケットをもらい、ついに我々はピラミッドの前に降り立った。

三大ピラミッドは、第一ピラミッド〜第三ピラミッド(クフ王(最大)、カフラー王、メンカウラ王)の三種類。
だが、我々にとってかなりショックな事実が告げられる。

「クフ王のピラミッドではなく、第三ピラミッドに入る」

狭義の意味での「七不思議」は、クフ王のピラミッドなのだ。
そんな、最小のピラミッドに入っても仕方が無いではないか。

だが、我々はとりあえずクフ王のピラミッドの前で写真を撮らされ有無を言わさず第三ピラミッドへと運ばれた。

尚、余談だが、この周辺にはラクダがたくさん歩いており、ラクダに乗せて金を取ろうというエジプト人が大量にいる。だが、迂闊に載ってしまうと法外な料金を請求されるので、注意が必要である。というか、同じツアーの人がいきなり引っかかって40E£(1200円くらい)も取られた。

また同様に、パピルスも売っている。
これもやはり偽物で、20枚で1000円くらいだが、材質はバナナの皮だったりするらしい。

そして、ピラミッドの小さな置物を売りつけようとするものもいる。3個セット。

要注意である。


何はともあれ、第三ピラミッド。
いよいよピラミッド突入である。

ピラミッドへは、軽く階段を上り、少し高い位置から、内部を下って入っていく。
広さは、人が丁度すれ違えるぐらいで、上も低いため、かがんで入っていかなければならない。

しばらく下っていくと今度は道が真っ直ぐになり、奥に部屋がある。
だが、特に何があるわけでもない。

途中に一箇所分かれ道があり、小さな部屋がいくつか入っていた。小部屋の中で何やら解説しているエジプト親父がおり、終わるとバクシーシを要求されるが、解説がよく聞こえなかったので渡さなかった。


ピラミッドの中は結構暑く、帰りは同じ道を登って帰るので、地上に戻った頃は結構汗かいていたりする。

ピラミッドから出た我々は、3大ピラミッドと砂漠(サハラ?)を一望できる丘で写真を撮り、ラクダ乗り場でラクダに乗った。乗る時間は短く、グルっと回って写真を撮って終わり、ぐらいだ。ラクダの上は高くて、結構怖いのである。30円くらい。

最後に、バスでスフィンクスの前に降り、スフィンクスの写真を撮って終了。スフィンクスのそばに寄れる時間はもう過ぎていたのだが、ガイドのハマちゃんが警備の男にバクシーシを渡していた。まぁ、そういう国なのだ。



4.土産物屋との戦い

その後、今度は土産物屋に移動。
やはりさっきと同じなのだろうが、まぁそれはいい。
同じように紅茶が振舞われ、店をぐるぐる回る。
今度は、像とか、お皿とか、小物入れとか、アクセサリー関係の物を売っている店で、いかにもな感じ。値段も結構高い。

俺は特に何を買う気も無かったのだが、ギリシアでゼウス像ローマでミカエル像を買っていたので、ここでも何か像を買ったほうがいいだろう。

というわけで、ホルス(太陽神)の象を選ぶ。最初、40$だったのだが、絶対高いので、店のおっさんと交渉。30$まで下がったが、それでも高かったのでやめた。

やめた後しばらく店をふらついていると、さっきの親父が声をかけてきた。30$が限界だから、とか言っている。買わぬといっておるに。だが、その後再び交渉が始まり結局80E£、2400円ほどで片がついた。多分それでもぼられているが、まぁ仕方あるまい。それにしても、交渉時に単位がコロコロ変わるのが不思議だ。

というわけで、いろいろあったがホテルへ戻り、ツアーは解散。
だが、ハマちゃんは不気味な事を言って去っていった。

「はい。では、明日は自由時間ですね。皆さんに会えないのが淋しいです。
 で、明後日ですが、明後日は………
午前1時にロビーに集合してください」

明後日午前1時………?
って、明日の夜じゃん。

真に、過酷なツアーである。

わめいていても仕方が無いので、早々に晩飯を調達せねばならない。

再び昨日のデパートへ行く。
明日はフリーなので、そのための水を買う。長旅になると思われるので、少々重いが二人とも1リットル購入。

食料品売り場は結構面白いので、色々買ってみた。
イチゴやら謎のフルーツやら、竹のお土産として牛肉ソーセージを買ってみたり。で、デパートの入口でケバブ(削ぎおとした肉をピタにはさんだもの)を買って食い、明らかに足りないのでマックでハンバーガーを買って帰った。

なお、なぞのフルーツの感想は以下のとおり。

イチゴ:日本と少し食感が違う。酸っぱい。
小さいフルーツ:リンゴ系。渋い。
大きいフルーツ:梨系。甘くない。
ヘンな飲み物:甘すぎ。ていうか、どろどろしていて既に飲み物ではない。



世界征服の暁には、外国人だからといってボる奴は処刑。

第9章 ピラミッドめぐりへ