第6章 コロッセオ(6日目)

1.ヴァチカン美術館

ローマ最終日。
7時に起床し、普通に旅立つ。
今日は昨日閉館日で行けなかったヴァチカン美術館に行くのである。
幸い、ホテルからヴァチカンまではシャトルバスが出ている。
この使えないホテルも、やっと人様のお役に立てるのだ。

ロビーで、バスについて聞いてみる。
ロビー「今日は出てません」

は?



見ると、張り紙に「今日は」バスがないと書いてある。
なんだそりゃ。本当に使えないホテルだ。

仕方なく、タクシーを使い、サン・ピエトロまで向かってもらう。

ヴァチカン美術館は歴代教皇が集めたコレクションが並ぶ巨大な美術館で、全長7Kmらしい。全部見ると6時間掛かるそうだ。元々ここは教皇が住んでいたので、順路がきっちり決まっているわけではない。

そこで、ガイドブックに書いてある通り、コースを一つ選んで回ることにしたのだが………

順路決まってるじゃん。
一本道にしか見えない。


人間多すぎな美術館。流れに乗っていくだけ。他のコースというものがどこにあるのか、きわめて謎であった。
中には、ミケランジェロの彫像や絵画がたくさんあって、ミケランジェロ好きな俺にはかなり満足だった。見どころのシスティナ礼拝堂の「最後の審判」を初めとして、教科書に出てくるような絵や像がたくさんあった。かなり良かった。ここは行っておくべき。


2.コロッセオ

その後、タクシーで「ヴィトリオ・エマヌエーレ2世広場」という所に行き、昼飯を食ってその足でコロッセオに向かう事にした。

昼飯は、ガイドブックに載っていたアンジェリーノ何とかと言う店。
食ったものは

ペンネカルボナーラ:スパゲティだと思っていたら、よく見るとペンネ。筋の入ったつぶれたマカロニみたいな物。美味しい。

ピッツァマルゲリータ:マルゲリータは「具がないピザ」。ピザの本質が味わえる。こっちは、前と違ってカリカリの台だった。

ティラミス:イタリアでティラミスを食うぞ、という念願を果たす。美味。イタリアのティラミスはお酒が強いと言う話だったが、そうでもなかった。

カプチーノ:泡泡していた

中々繁盛していて、いい感じの店だった。


メシを食った後、コロッセオへ。恐らくイタリアでいちばん有名な建築物である。

向かう途中に、巨大なヨーロッパ周辺地図の描かれた壁画があった。三つの地図には、時代ごとのローマ帝国の支配領域が描かれていた。これをみると、古代ローマがいかにヨーロッパを席巻していたかがよく分かる。


さて、コロッセオの入口。
コロッセオ周辺には、剣闘士姿の男がたくさんいた。
彼らは一緒に写真を撮ろうと言ってくるが、それに従うとお金を取られるらしいので注意が必要である。

その時、後ろから名指しで声をかけられた。
はて?

振り返ると、そこにいたのは………

Tだった。
Tは、4月から俺が働く会社の内定者で、同じ大学出身である。
飲み会で、3回くらい会った事がある、やたらと元気な男だ。
なんと、異国の地で知り合いに会ってしまった。

その上、Tはさらに予想外のことを言っていた。

「いやぁ、嬉しくてつい声かけちゃったよ。3人目だ!
「さ、3人目?」

なんと、ローマでIBMの内定者に会ったのが俺で3人目らしい。
つまり、現在ローマにIBM内定者が少なくとも4人いるわけだ。

しかも、Tは昨日のサッカー場でその一人に会ったと言っていたから、なんと3人がサッカー場にいたって言うことだ。

さらにその数日後になるが、知恵蔵(麗子さんとゼミが同じIBM内定者)が、そのサッカー場で会った人とパリで会ったらしい。

世界は狭い。
いや、恐るべしである。

Tとちょっと長話をしている間に、Isomuraが行方不明になって多少焦ったが、別に怒っていなくなった訳ではなく、コンタクトを直していたらしい。こんな英語も通じない国でお互い消息がつかめないとなると、辛いのだ。

さて、いよいよローマ最大の名所、コロッセオ。
古代の剣闘士たちが猛獣と、あるいは人間同士で命がけの戦いを繰り広げていたと言う大闘技場である。

中は巨大で、石はボロボロ。だが、未だ残っている事自体が凄いのだろう。迷路のようになっている地下がむき出しになっていて、今一どこで戦っていたのかはつかめなかった。中でIsomuraが何回目かの写真を撮っていた。今度は外人。なお、Tには中でも一瞬出会った。

コロッセオを出た我々は、フォロ・ロマーニへと向かう。



3.フォロ・ロマー二と真実の口

フォロ・ロマーニは、コロッセオのすぐ近くにある、古代ローマの遺跡群である。
とりあえず、一部は無料で入れる。

「ローマを掘ると遺跡が出てくる」

という表現が、あながち大袈裟でもない事に気付かせてくれる地域で、普通に遺跡が半分埋まっているような光景が広がっているのだ。

なお、ここは無料トイレがある。
何をするにも金を取ろうとするローマにしては、非常に寛大と言うか、心が広いと言うか、いい感じの観光地だ。

………並ぶ。ローマ人はトイレが長い。
………やっと、俺の番だ。

中に入ろうとすると、前をさえぎられる。

何だ、順番を守………

イタリア人のおばちゃんが我先に入っていった。
いや、確かに認めよう。順番から言ったら、あなたのほうが先です
僕の方が後に来たことは、疑いようもございません。

しかし、です。

ソコハ男子トイレデハナイデスカ(かいえん風)



気を取り直して、フォロ・ロマーニへ。
うーん。凄い。
巨大なレンガ色の建物が、無造作にあちこちに建っている。
それは神殿であったり、宮殿だったりするのだが、古代好きな俺にとってはやっぱり感動モノなのだ。

前にも書いたかもしれないが、日本人は石の文化に慣れていないので、古代の巨石建造物には素直に驚ける。圧倒されるのだ。

フォロ・ロマーニを抜けて、次の目的地へ……
行く途中に、後ろからローマ人の親父に声をかけられる。
何かまた面倒な事になりそうなので、放っておく。
怖い人か、物売りに違いない。ローマはそういう町である。
でも、ついてくる。
なんだよ。

振り向いたら………
Isomuraのマフラーを持っていた。

落としたの3回目。


親切なローマ人のお陰で、無事にマフラーを取り戻し、我々は真実の口を探しに旅立った。
なんでも、「川の神」の顔が描かれた「真実の口」に手を突っ込むのだが、嘘つきはそのまま手が抜けなくなるらしい。もちろん、抜けなくなった人が今までにいないからこそ、こういう観光名所が成り立つわけだが。一人でも抜けなくなったら、後の人が手を入れられないではないか。

そんなわけで、真実の口を探す。結構探す。
すると………あった。

思っていたような場所ではなく、建物の脇に小さな通路があって、その奥にあった。
そして、長蛇の列が出来ている。

そのほとんどが、日本人だ。
贔屓目に見ても、8割から9割は日本人だ。
100%に迫る勢いだ。
相当恥ずかしい光景だ。
アホじゃないのか? 日本人。

というわけで、アホな日本人として、真実の口に手を入れてバッチリ写真をとる。
なにやら奇妙な連帯感が出来上がっていて、行列の自分の後ろの人が前の人の写真を撮る、というシステムが確立されているのである。

何なんだ。日本人??

ちなみに、通路の壁は落書きだらけ。
その下に、日本語で「落書きしない」と描いてある。
本当にダメだ。日本人。


その後、再び別の道を通ってフォロ・ロマーニへ移動。
その途中に見えた光景は、素晴らしかった。
広場に、茶色い遺跡が半分埋まっているような広いスペースが広がっているのだ。
まるで、地面から遺跡が映えているような感じである。

その時、Isomuraが突然犬の糞を踏んづける。
ものすごい気合いで糞を取り去るIsomura。
かつてこれほどこの男が執念を燃やしているのを俺は見たことがない。

気を取り直して、フォロ・ロマーニへ。12000リラで、パラティーノの丘へ入る事ができる。コロッセオの入場券と酷似しており、一瞬共用なのかと思って焦った。よく見ると微妙に違う。

丘を登っていくと、例によって遺跡がたくさんある。
アウグストゥスの巨大な宮殿後とか、なんだかよく分からない小さな博物館とか。

普通に歩いていると、見覚えのある風景。
ん?

なんと、さっき無料で歩いていたフォロ・ロマーニへ合流してしまった。
どこまでが有料で、どこまでが無料なのか分からないが、無性に損してしまった気分だ。逆の道を通れば、有料エリアもタダで入れたんだろうか?

と、少し悔しい気分に浸りながら、コロッセオ駅へ。
入口キオスクで、イタリア語版FFIXの攻略本が売っていたので、購入。
FFIXは、日本では攻略本が出ていない。というわけで、何気に貴重なのだ。
もちろん、俺はイタリア語など全く分からないのだが。

コロッセオ駅で切符を買う。
自動改札に入れる。
………でてこない。
………吸い込まれた???


なんと、切符が無駄になった。

今日でイタリアは最終日なので、リラはあまり残っていないのだ。
結構ピンチ。
でも、交渉するにも英語の通じない国だし、英語だってちゃんと喋れるわけじゃないし、そもそも時間が勿体無いので、仕方なくもう1枚切符を買う羽目になった。

今度は小銭が無いので、売店で切符を買う事になった。
すると、売店で買った切符は今度はでかすぎて、自動改札に入らない。
なんと言う恐ろしい国なのだろうか。
しかし、自動改札に通すと刻印がされるのだが、刻印無しでも改札は通れる(刻印が無いのが見つかると大変な事になるらしい)ので、とりあえず刻印無しで入る事にする。今まで切符を見せろといわれたことはないし。

テルミニ駅で降りて、ワインショップに行く。ローマ最大のワイン専門店「トリマーニ」。そこで、ワイン2本と、ホテルで飲む用にシャンペン1本を買って帰る。
ワインは相当に重いが、まぁ仕方ない。

テルミニ駅に戻り、再びスペイン広場へ。
………と思ったのだが、恐ろしい事に、ここで検札をやっている。

あばい!!


何しろ、今回に限って刻印がないのだ。
大変なことになってしまう。

といっても、止める人と止めない人がいるようだ。検札自体は結構ずさんなため、そばを何事も無く通り過ぎる事にした。
………

「ちょっと待て」(何語だか覚えてないが、通じてしまった

あばい!!

「切符を見せろ」

俺、絶体絶命のピンチ。
ちなみに、Isomuraは俺のこの窮地については知らない。


俺が胸ポケットの切符を出すのを手間取っていると、
Isomuraが自分の切符を見せた。駅員は

「OK」

と言って、俺も通してくれた。
そう、相方が普通に切符を持っていれば、もう一人も持っているのは普通なのだ。と、そう考えるのは意外と盲点なのだな、と実感した。かくして、Isomuraに救われた次第である。


スペイン広場では、再びプラダへ。その間、Isomuraには近くの相当に有名らしい喫茶店「カフェ・グレコ」(日本語訳すると「ギリシアの喫茶店」?)で待っていてもらう。

買い物が終わってカフェ・グレコへ。アイスカフェラテ600円らしい。無性にトイレに行きたかったのだが、さすがにこの店は高級感が漂いすぎていて、やめた。

いよいよ、イタリア最後の晩餐。あちこち探し回った挙句、最終的に「マリオ」という店に入る。ガイドブックに載っていたのだが、ここは「狩猟料理の店」。世界中で人気という触れ込みで、店の中には恐ろしく眉毛の太い店長「マリオ」が各地の有名人と撮ったと思われる写真が何十枚、何百枚と飾られている。

何気なく持ってこられた水を何気なくあけてもらったら何気なくガス入りで凹んだ。


前菜
ペンネ・アラビアータ(唐辛子ソース?)
ミートソース(これもペンネ? メニューにはwithマッシュルームだが入ってない)

メイン
牛肉のワイン煮込み(これは美味しい)
アバッキオ(骨付き羊のグリル。徐々に出てきたらしい)
兔のシチュー(初めてウサギを食った。鶏肉みたい)

デザート
ミックスフルーツ(カクテルに、色んなフルーツが入っている)



どうやらこの店は「知るひとぞ知る」店らしく、しばらくするとものすごい勢いで客が入ってきて、大繁盛していた。日本人はおらず、勝った気分に浸った。大当たりである。

というわけで、近くのタクシー乗り場から帰ホテル。
タクシーの運ちゃんは「First」「Second」という風に順番が決まっており、客はその順番に乗せるということに(彼らのルールで)なっているらしい。「スペイン広場のタクシー乗り場」内の秩序が出来上がっていて、ちょっといい感じだった。

世界征服の暁には、世界的に男は男子トイレ、女は女子トイレ。



第七章 アフリカ大陸へ